君は彼氏だけど彼氏じゃない【轟焦凍】 (ページ41)

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「久しぶり、母さん」

ベットの上に人が座っていた
その人はゆっくり振り返って僅かに目を見開いて、そして微笑んだ

「あら、焦凍。来てくれたのね…隣の子も」

この人が焦凍を産んでくれた人…
綺麗で柔らかで繊細な印象を抱いた

「はっ初めまして…！私、翡翠Aって言って…えっと」

彼女って言った方がいいのか分からず頭を下げたまま数秒固まった
だが焦凍が私の手を握ったのに気付いた

「焦凍…くんとお付き合いさせていただいています」

焦凍のお母さんはまた目を見開いた

「そう…そうなのね
焦凍…本当に綺麗な子と付き合えて…良かったわね」
「母さん？」
「あらいやだ…夏くんに彼女が居るって聞いた時も泣きそうになっちゃったの。もう歳かしらね」

綺麗な瞳を涙で濡らしたお母さんは私の空いた手を握った

「Aちゃんよね？私は焦凍の母親の轟冷です。冷さんでもお義母さんでも好きに呼んでくれていいよ」
「おっお義母さん…っ！？」
「ふふ、娘が2人も増えちゃったわね。それもこんなに可愛い」
「ひぇ…恐れ多いですよ…それにけっ…結婚なんて気が早い…」

私が助けを求めるように焦凍を見る

「早くねぇだろ？お前はもう出来るし俺は来年になればできるし」
「焦凍まで…！」

顔は笑っているし冗談で言っているんだろう
からかわれた気がして少し頬をふくらませた

「悪い、だけど冗談じゃねぇよ」

そう言って頭を撫でられる
冗談じゃない…？

冗談じゃなくても演技ではある
それに気付いた私は何故か悲しくなった

これは、今までの事は全て演技だと思い出してしまったから

「…そうだね」

だから私も演技をし返した
これも問題が解決してしまったら終わってしまう
そして冷さんの事も騙してしまった罪悪感を振り払う

「冷さんって呼ばせてもらいますね。籍入れたら真っ先に｢お義母さん｣って呼びに来ます」
「ふふ、分かったわ。楽しみにしてるわね」
「…はい！」

冷さんの手を両手でしっかり握った
氷のように冷たくてまるで焦凍の右手のような温度だった

「あぁそうだ。焦凍、もうそろそろで冬美がくるよ」

焦凍が僅かに眉根を潜めたのが私からは見えた

「お…そう、か。Aまだ帰りたくねぇだろ？」
「え、もう帰るの？」
「いや帰りたくねぇならいい」
「私はもっといて欲しいなぁ、ねぇAちゃん？」
「そうですね、私ももっとお喋りしたいです」

焦凍は少し困った表情をして椅子に座る
その様子を訝しげに思いながら私も座った。