君は彼氏だけど彼氏じゃない【轟焦凍】 (ページ30)

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大きいプールのような水槽の中にイルカがゆったりと泳いでいた

蒼い青い水
見てるだけであれほどの水を操ってみたら楽しいだろうな、なんていう衝動に駆られた

「…"個性"、使うなよ」

そんな私の心境を察してか焦凍は半ば呆れながら言った

「焦凍に水がかかりそうだったら使う」
「ヒーロー志望がそんなんで"個性"使うな。てか自分にかかった時に使えよ」
「私は慣れてるからいいの」
「慣れてるって言ってもなぁ…でもこんな所までかからねぇからな？」

そう、ここはちょうど真ん中辺りの席だ
この大きな場所では水はおろか、声すら届かない気がする

「念には念をって言うでしょ」

なれないことわざを言って私はドヤ顔をした
焦凍は興味のなさそうに｢そうだな｣とだけ言って水槽の方を見た

「…始まらねぇな」
「あと3分ぐらいあるからね」

壁にかけられた大きな時計を見て予定表と照らし合わせる

「そう…か…っ！？」

急に、焦凍が後ろを勢いよく振り向いた
その表情は何故か強ばっていた

「なっ何？！敵？！どした？！」

思わず"個性"をいつでも使えるようにして焦凍の目線の先を探した

「あの、気持ち悪いドレスって…」

ドレス…？
こんな所にドレスで着る人いるのかな？
…人には色んな趣味あるもんな、仕方ない

……って、なんだあのフリフリぶりっ子してる服

「焦凍、あれってさ」
「言うな、鳥肌が立つ」

焦凍が目線を逸らした
私も目線をそらす

後ろ姿しか見えていなかったが、あの半端な茶髪を高くツインテールにしていてぶりっ子のような…いや、ぶりっ子なのか？
ともかくフリフリな服

間違いない
焦凍の婚約者の水無月だ

「すげぇ気味の悪い視線感じる…」

焦凍が二の腕をさすった
その目は死んでいた

「…焦凍、ここから移動しよっか」

これ以上焦凍の気分を害させる訳には行かないと私は立ち上がった

「え？イルカショー観てぇんだろ」
「でも焦凍嫌でしょ、あんなに見られたら」
「正直に言うとそうだけど…でも俺はお前とイルカショー観てぇし
それにこっから動くのも何だか癪に障る」

焦凍は強く私の手首を掴んで離さなかった

「今の時点じゃ何もされてないから…近付いて来たらすぐにここを出よう」
「…うん、そうだね」

焦凍に諭されもう1回椅子に座り直した

私がイルカショーを楽しみにしていたのを分かっていたんだろうか
そんな焦凍に気遣いに、自然に笑みがこぼれてしまった