君は彼氏だけど彼氏じゃない続【轟焦凍】 (ページ2)

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「…は？何言っちゃってんのこの子」

口を開いたのは彼ではなく女の方だった

「話盗み聞きして、それで浮気発覚して、それでも笑ってられるって…さすがだねぇ、女優の娘さん」

その言い方に、何かが壊れる音がした
母をバカにされた気がして屈辱感が沸き起こる

私は笑顔を作るのをやめて、真顔で2人を見返した

「…私は貴女に言ったんじゃないです。何か言ったらいいんじゃないですか、先輩」

きっ、と彼を睨むと彼はタジタジと視線をさまよわせた

「うっ…うるせぇなあ…！てめえ、少し顔がいいだけで調子乗るんじゃねぇぞ？！
翡翠葵の娘だからって付き合ってやってただけなんだからな？」

急に饒舌になった彼に私の方が困惑してしまう

それと同時に『翡翠葵の娘』という肩書きが鉛のように重くなった
もう全て辞めてしまいたい
なんで私は母の娘に産まれてきたんだろう

私は母や兄のように人を惹きつける能力がなくて､子役なんかもしてたけど中学に上がると同時に辞めてしまった
そこに目をつけた先輩に猛アプローチをうけて付き合った

そんなにアプローチしてくれるのならそんなに私の事が好きなんだろうと甘い勘違いをしていた

「…とっとと俺の前から消えろよ
言わないでも分かると思うけど、別れよう」

そう言って、薄気味悪い笑みを浮かべながら2人は私を通り過ぎていった

そのあとは何も考えられなくて、どうやって家に帰ったかも正直覚えていない
ただ、覚えているのは家に帰って、優しく｢どうかしたのか？｣と聞いてくれた兄の姿を見て大号泣したことだけだった

＿＿緑谷side

「…そんな所かな
それから告白してくる人達全員｢翡翠葵の娘と付き合いたい｣って思ってる風に見えてきちゃったの
…だからもう恋愛は辞めた」

儚げに笑う彼女は、泣きそうだった

「だから焦凍の気持ちを知るのが怖い
…自分の気持ちを知るのが怖い」

そこで僕はハッとした

「翡翠さん…轟くんの事…」

2人は両思いだったんだ

「……分かってる。焦凍がそんなことしないのも、焦凍が私の気持ち分かってくれることぐらい」

でも、と翡翠さんは俯いた

「身体が、心が言うこと聞いてくれないんだ
焦凍の事好きなはずなのに…キスされて嬉しいはずなのに
なのに態度に出せなくて…」

彼女だって阿呆じゃないから轟くんの気持ちはきっと分かってる

「…私は、焦凍の事が大好きなの…っ！」

翡翠さんは叫ぶように轟くんへの気持ちを口にした。