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伏黒君は私に向かって人差し指を立てた。
「一、釘崎に謝りに行く。」
続けて、伏黒君は中指をたて、指で”2”を作った。
「二、小松の思いを、釘崎に伝える。」
そして伏黒君は、もう一本の指を立て、”3”を作った。
「三、釘崎と仲直りする。」
これだろ、と伏黒君は言った。けれどそれに納得できない私は、あ、だとか、う、だとか意味のない音を吐き出しながら反論した。
「で、でも、謝るなんて出来ない。私は、悪いと、思ってない。野薔薇を庇ったこと。それに、私は、野薔薇が、自分の手に、釘を指すの、見て嫌だった。野薔薇も、謝る、べき。」
「わかんねぇのか。釘崎も同じだったんだよ。」
言葉の意味がわからず首を傾げた私に向かって、伏黒君は「いいか。」と真剣な表情で言った。
「小松は、釘崎が傷つくのを見て嫌な気持ちになった。釘崎は、小松が傷つくのを見て嫌になった。同じだろ。」
「お、なじ。」
その言葉を受けて、私は目を見開いた。
「野薔薇と、私は、同じ、感情をもって、る?」
「そうだ。」
伏黒君は当たり前のように、頷いた。その瞬間、私の胸の内がゆっくりと熱を帯びた。
同じ。同じだったんだ。私はその言葉をゆっくりと噛みしめた。
いつからか気づいていた。私は、野薔薇とは違うと。
私にとって野薔薇は特別な存在だ。野薔薇は私に知らない世界を教えてくれた人で、私に生きるという選択肢をくれた人だから。でも、野薔薇の世界には私以外にもたくさんの人がいて、野薔薇はその人たちのことも大切にしている。
いつだったか。野薔薇は誰かとの別れを惜しんで、駅で泣いていた。ついこの間も、虎杖くんのことを思って、ここで涙を堪えていた。
私には、そういった感情がない。私は魔女だから。私には人の心がないから、悲しめないし、泣けない。だから野薔薇と私は違うんだって思ってた。
でも、そうか。私たちが喧嘩したのは、同じ気持ちだったからなんだ。
私は目の奥が熱くなるのを感じた。
嗚呼、それはなんて、し。
「?どうした。」
伏黒君が近づいて、私の顔を覗き込んだ。そして、動きを止めた。
「小松?」
伏黒君の声が、私の鼓膜を揺らした。すぐ目の前にある伏黒君の目の中には私が映っていた。
伏黒君の中の私は、涙を流していた。
「どうしたんだ。小松。」
伏黒君の問いに、私は首を振った。
「わからない。」
頰を伝う滴を手の甲で拭いながら、私は呟いた。
「私、今、なにを考えたんだろう。」
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時