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「気分よ。たまにゃいいでしょう?」
そう言って眠りにつく彼女をちらりと見ては、やっぱりいつもと同じじゃないかと、少しだけ笑みを漏らす。彼女が蝶とするならば、俺はきっと花の蜜だ。吸われて吸われて、それが彼女の糧になって、彼女を作りあげていく。
生きるために俺は彼女を目的として。そうだ、利用している。
─────ほら、やっぱり「蝶と花の蜜の関係」じゃないか。
はらり、と開いた本に留まる蝶。ここに、花の蜜はないのに。寝ている彼女を起こさないように、起こさないようにするつもりだったのに、蝶が舞ってくるものだからつい声を発してしまう。「なんで今来るんだよ。」
『蝶のことを考えてる時に。』
…あれ、これ俺が花の蜜だと思って…は流石にないか、と笑う。
もしそうならば、こいつは相当意地悪な喋で、悪趣味なセンスを持っている。
それにしても綺麗な碧の羽根。彼女の、あの深い海のような、澄んだ空のような瞳の色に似ている。太陽の光が反射してより一層美しく思える。
そういえば、最近目を見て話したことなんて無い。内通者なんて、いずれちゃんと話すつもりだったのに、ママの犬になっていたことの罪悪感と、羞恥心が胸で渦巻く。本当はこれが「最善」であったことに間違いはないはずなのに、彼女に嘘をついていたこと、彼女に負わせる負担を少しだけ増やしてしまったことが辛い。
こんこんと眠りこけるAに近づけば、ぐっすりと、それもなんとも気持ちのよさげな表情を浮かべている。気を抜けば見とれてしまう。顔だけは良いものだ。
「起きろ、そろそろ自由時間も終わるぞ。」
彼女のその華奢な体を揺さぶる。そうでもしないと起きない頑固さがAにはある。
「レイ…。もうそんな時間なの?」
そうじゃなかったら起こさない。そう返せば、ふっと微笑む。不意打ちのその表情にほっとする。まだ、彼女は自分を信じてくれている。安心が広がるようだった。
「まぁた寝ちゃったな、ノーマンと話してこよっと。じゃあねレイ。」
俺が話す予定だったのに、と肩を落とす。この感覚は蝶を逃がした時と似ている。おれはいつまでも彼女の羽を掴めないままだ。
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溢れる違和感の真実 「N」 *ヤシの実様→←蝶の羽が掴めない 「R」
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蜜柑の樹(プロフ) - ヤシの実さん» ありがとうございます!ノーマンサイド…成程、またいつか書かせて頂きますね、ご意見ありがとうございます!凄く嬉しいです。是非今後とも応援よろしくお願いします! (2019年3月20日 22時) (レス) id: ece34a1d58 (このIDを非表示/違反報告)
ヤシの実 - 初めまして!「作戦の行方〜」と「君の幸せを〜」が大好きです!!レイサイド切なかったです、、、ノーマンサイドもお時間があれば読んでみたいな〜と思ったり(笑) 勿論!他の作品もとても素敵でした^^* 更新楽しみに待ってます! (2019年3月19日 21時) (レス) id: ad6942667d (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑の樹(プロフ) - moca.sararenonさん» おわああああ!めっちゃ嬉しいです!更新…はい。頑張ります!(ちょっとテストだったもので…(言い訳)) (2019年3月2日 17時) (レス) id: ece34a1d58 (このIDを非表示/違反報告)
moca.sararenon(プロフ) - とっても面白いです!!!!更新頑張ってください!すごく読みやすくて、一気に読んでしまいましたああ!更新頑張ってください! (2019年3月1日 15時) (レス) id: 86f2d024d7 (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑の樹(プロフ) - 暁ーあかつきーさん» 早速ありがとうございます!ご期待に添えるよう頑張ります! (2019年2月5日 22時) (レス) id: ece34a1d58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑の樹 | 作成日時:2018年8月8日 11時