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「あの…今の話でわかんないとこあった？」

眉を寄せて、不審そうに問いかけられる。
その言葉で私はピンと弾かれたように我に返った。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。また分からなくなったら聞いてもいいですか？」
つい早口になったのがわかり、手のひらが嫌に湿っていく。
コクリと頷くこの男性を、私は知っている気がする。
私より年下にも見えるが、今日からこの人が私の先輩らしい。

転職して1日目、覚えることも多く酷く疲れてしまった。ふうと軽い溜息を吐くと隣のデスクに帰ってきた先輩と目が合う。

「苗字さん、甘いものとか食べます？」

それは好きかどうかと言うことだろうか。

「はい、好きですね。」

「そっか、じゃあこれ、貰ってくれない？」

そう言って彼のデスクの上のコンビニの袋から出てきたのは小さな箱に入ったチョコレート。

「他の物買いに行ったんだけど、くじ引いたら当たったから。俺こんなに要らないし。」

そう言うとスリーブから１個抜き取って私に手渡した。そのまま包装を解いて先輩はチョコレートを食べる。

「あま…。」

「ありがとうございます、いただきます。」

先輩から思わぬプレゼント。
顔は無表情に近いが、少しは歓迎の気持ちがあるようで嬉しい。

「食べないの？」

「今ですか？」

「うん、それぐらい誰も気にしないよ。」

そう言われてしまっては食べない訳にはいかない。
じっと中性的な顔に見つめられ若干食べずらいけど……。

「甘いですね。」

「好みじゃなかった？」

「いえ、好きですよ。覚えることが多くて少し頭が疲れていたので格別に美味しいです。」

「そっか。じゃあよかった。」

よかったと言いつつも、もう先輩の視線はパソコンに移っている。その横顔を見ても今朝感じた知っている感覚はしない。
誰かと勘違いしてるんだろう、そう考えて今は仕事に集中することにした。

結局家に帰っても先輩に以前会った誰にも当てはまらなかった。
なにより先輩の名前を聞いてもピンと来なかったのがその1番の決め手で、きっと誰かに似ていたのだろうと結論を出した。