３５話 ページ38
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「……あ。」
部屋に戻る途中。そう呟く声が聞こえたから、顔を上げてみる。
そこには第三体育館組(日向無し)がいたのだ。
少し気まずくて、私はまた俯いて５人の横を素通りしようとする。
すると、バシッと手首を掴まれた。
『……なんですか。黒尾さん。』
顔を上げ、絞り出すようにそう言う。
「いや、つい……。あ、及川が呼んでたぞ。お前の事。」
自分でも予想外の事だったのか、少し戸惑いながらもそう言うクロ。
『そう、ですか。分かりました。』
手首を掴まれているのには気づかないふりをして、また俯く。
そしてクロの手を無理にでもはがして、失礼します。と言ってから、また歩き出した。
及川さんに、怒られるのかな……。
と、不安を胸に抱えながら。
ガラガラと、ドアを開けると、さっきまで笑いながら話していた三人はピタッと静かになり、私の方を向く。
入った瞬間に違和感を覚えた。
まあいいか。と思いながら、私は三人の輪に入っていく。
『さっきはなんか、すみませんでした！もう大丈夫なので！』
私が笑顔でそう言うと、三人は微笑んで、「よかったよー……！」という反応をしてくれた。
「皆、Aちゃんの事心配してたもんね。」
私が三人に囲まれて、笑いあっていると、ドアの方から笑いながらそう言う声が聞こえてきた。
私達がドアの方に目線を向けると、微笑んでいる潔子さんと仁花がいたのだ。
……なんかさっき風呂入ってる時は自分の事に精一杯で気づかなかったけど、二人とも濡れてる髪、可愛い……というかセクシー？
そう思いながら少し話していると、私のスマホがブルルと震えた。
恐る恐るスマホを見てみると、及川さんから着信があったのだ。
その様子を見た潔子さんと仁花は心配な目をしていて、私は二人を見ながら、
『ちょっと行ってきますね。もう大丈夫ですから。』
と言って、床から立ち上がった。
……あ。
『向こう行くついでに、飲み物買ってくるんですけど、なにかいりますか？私、買いますよ。』
ドアのところまで行ってから、私は戻って来て財布を持つ。
それからニヤッと笑って、「勿論私のおごりで。」と言う。
皆は最初こそ遠慮してたけど、私が「お礼したいだけですから！」と言うと、納得したような表情を見せて、注文してくれた。
それを紙に書いてポケットに突っ込み、スマホと財布を手に持って、私は今度こそ部屋を出るのだった。
嘘でもいいから、辛くなったら笑った方がいいな。
気持ちが少し楽になるから。
少し緊張するけど、逃げたら駄目だから顔を上げて、及川さんのところへ足を進めるのだった。
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作者名：柚子胡椒 | 作成日時：2018年12月6日 18時
