３４話 ページ37
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『……簡潔に言うと、私が選手に混じって試合してる時に植野さんが声かけてきて、強めに返したら植野さんが泣いて、私は選手たちの視線に耐え切れなかったから逃げてきただけです。』
また、あの時の記憶が鮮明に残っている。
思い出すたびに寒気がして、温まってきた体はまた冷たくなっていく。
私は口元の下まで温泉に浸かった。
「Aちゃんは自分も悪いところがあったと思ってる？」
少しして潔子さんがそう訊いてきた。
目には鋭さがある。
『……はい。私も言い方がキツすぎたとは自覚してます。』
俯いて、震える声でそう答えた。
「なら大丈夫だよ。Aちゃんはもう繰り返さないから。」
優しい声色で潔子さんがそう言ってくれて、顔を上げる。
左右を確認すると、潔子さんと仁花が優しく微笑んでいてくれた。
「Aちゃん。大丈夫。皆許してくれるよ。」
大丈夫って言葉。こんなに安心する響きだったっけな……。
そう思っていたら、緊張が解けて、視界が滲む。
『あ、ありがとう……心配かけてごめんなっ……！』
私はそう言いながら泣いてしまった。
あれから、「でもお風呂の中で泣くのは駄目かな。」という潔子さんの発言で、私達三人は脱衣所に移動した。
『……もう、大丈夫、です。』
そう、弱弱しく微笑んで言う私を見て、仁花と潔子さんは心配しているような表情をした。
「本当に？」と言っているようだった。
『大丈夫ですから！』
そう私が今度はニコッという効果音が付きそうな感じで笑うと、二人は安心したようにホッと息をついた。
「あの……Aちゃん。植野さんに謝りに、行く……？」
心配しながらそう言ってくる仁花に、私はこう返す。
『……いや。今じゃなくても、いい。植野さんは多分私を嫌ってると思うから。向こうが嫌ってるのに無理に友達でいようとか思わないしね。』
そう言った私を見て、驚いた顔をしながら、
「Aちゃん。やっぱり凄いやぁ……」
と、へなへなと言った。
『私なんか、全然凄くないから……。それじゃ、私先部屋帰るね。清水先輩、仁花、またあとで！』
少し逃げるようにそう言って、私は脱衣所を出た。
今、あのままそこに居たら、多分言い合いになるだろう。
今は少し疲れたから早く寝たい。
生憎私にはそんな体力は無いのだ。
泣いて、今少し頭も痛いしね……。
部屋に帰ったらお金持ってきてなんか買おう。
そう、たまたま目に入った自動販売機を見て思うのだった。
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作者名：柚子胡椒 | 作成日時：2018年12月6日 18時
