来世もまた恋をしよう。【萩原研二】 (ページ17)

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「_____Aちゃん、さっきから何書いてんの？
"ばいばい"…て、どういう意味…？誰に向けて…？」

「んー？…当ててみて！」

「ええ〜、難しいな…」

私が木の枝で砂浜に書いた文字を眺め、顎に手を当て必死に考えている様子の萩原くん。

帰る前にもう一度だけ近くに行って海を眺めることにしたから、自分の決意表明を込め、砂浜に文字を書くことにしたのだ。

「うし、分かった。今日までの自分に向けてのサヨナラだろ？」

「惜しい…！…正解は、お兄ちゃんに向けての別れの言葉でした」

正解を伝えると、目を丸くし少し寂しそうな、切なそうな…どちらにしろ、萩原くんの優しさが伝わってくる、そんな表情(かお)をした。

「そんな顔しないで…。後ろ向きな意味じゃなくて、前向きな言葉。萩原くんの言葉で、目が覚めたの。

私はずっと、お兄ちゃんを好きで居続けなきゃいけないって思ってたんだって。

だからこれは…想い人としての兄との決別を書いたんだ」

答えたところで、私の書いた"ばいばい"という文字が、押し寄せてきた波によって消された。

「Aちゃんが少しでも楽になったんだったら、俺はそれでちょびっと安心できるかな」

「ふっ…ありがとう。萩原くんは、ほんとに優しいよね」

「……」

次は何を書こうとまた木の枝で砂浜に文字を書こうとした時、そっとその枝を引き抜かれた。僅かに手が触れ、不覚にも身体に緊張が走った。

「…んじゃ、次は俺が書いても良い？」

「っえ、も、もちろん…！どうぞどうぞ…！」

いつもみたいに冗談や甘い言葉を言うわけではなく、真剣な顔をしているからなんだか萩原くんの新たな一面…いや、素(す)の部分を垣間見た気がした。

萩原くんが枝で文字を書くのをじっと見つめる。

…平仮名で書かれたその二文字に、自分に宛てたものじゃないかもしれないのに、どんどん鼓動が速くなる。

「……ちなみにこれ、Aちゃんに向けて。

…ってごめん、今時ベタだし超ダサいな」

"もっとカッコよく伝えたかったのに"と照れ臭そうに頭を掻く姿を見て、前に彼が私に伝えてくれた言葉が蘇ってきた。

"だって俺、Aちゃんのこと好きになっちゃったからさ"

あれって…友達としてとか、そういう意味じゃなくて…

「…好きだよ、Aちゃん」

そんなに真剣に伝えられたら、当たり前だけど誤魔化したりすることなんてできなくて…本気なのだと。

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