来世もまた恋をしよう。【萩原研二】 (ページ16)

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「そんなの…そんなの、幸せなんかじゃっ…
幸せなわけないよ…っ…！」

「……」

ずっとずっと苦しかった。
義妹(いもうと)だから当たり前のように優しくされることに勝手に舞い上がって、その都度お兄ちゃんには相手がいるのだと落ち込んで。

「でもっ…お兄ちゃんが言うんだもん…
私が他の誰かを好きになろうと努力する時とか、誰かと付き合おうとする度にっ…

"お前はずっとどこにも行かなくていい"って…
"お兄ちゃんのそばにいればいいから"って…

だから…仕方ないじゃない、忘れられなくても…っ、」

こんなのとんだ八つ当たりだと分かっているけれど、誰にも打ち明けたことのない本音が堰を切ったようにポロポロとこぼれ落ちて。

「うん、そうだよ。Aちゃんは何も悪くない。
誰が悪いわけでもない…強いて言うなら、その言葉がAちゃんを縛り続けてるってこと」

まるで子どもを諭すように、頭を撫でられる。

「でも私には…っ、お兄ちゃんしかいないの」

母や義父の言うことなんて何一つ聞いてこなかった私は、いつしか親から見放されるようになった。
実の父に会えるのも、限られた時だけ。
大学入学のタイミングで家を出ると言った時も、止められすらしなかった。

心配してくれたお兄ちゃんだけが、一緒に暮らそうと言ってくれた。

「Aちゃんがそう思うのも、無理はないと思う。

だけど、そんな自分勝手で身勝手な言葉に、Aちゃんが囚われ続ける必要なんて何一つない。これまでも、これからもね」

「っ…」

その眼差しは、ああ、本当に警察官を目指している人なんだなと納得してしまうほど、純粋で真っ直ぐで。

「せめて、俺の前では頑張らなくていいからさ。

Aちゃんには、ただ笑った顔が似合うよ…ね？」

ぱちっと片目を閉じ、"だからもう泣かないで？"と親指で涙を拭われた。

少しおちゃらけたようなその様子に、釣られて笑顔になる。

「…ありがとう、萩原くん」

精一杯の感謝の言葉を伝えると、照れ臭そうに微笑んだ。

「どういたしまして」

「……」

…何故か。
少し頬を染めたその顔を見て、ドキッと心臓が跳ねた。

…あれ、私…

「(……お兄ちゃんといる時、こんな風に…)」

…ドキドキしたことあった…？

「Aちゃん…？」

萩原くんの不思議そうな顔を見て、ハッとする。

「…ううん、何でもない」

今はまだ、気づかないふりをすることに決めた。

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