来世もまた恋をしよう。【萩原研二】 (ページ15)

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私は今日、家族のことも、ましてや兄のことなんて、一言も自分の口からは話していないのに。
…自分が昔から悩み続けていることを、いつから悟られていたのだろう。
　

「……おかしい…っ、でしょ…
わたしは…っ私が好きなのは、…っ」

「…全部言わなくて良いよ」

言わなくても分かるというように、抱きしめる力が強くなった。

その優しさに、一度溢れた涙はもう止まることを知らなくなり、
ずっと一人で溜め込んでいた気持ちを吐き出したくなった。

「…っ10歳の時に、両親が離婚したの。

大好きだったお父さんとはもう会えなくなって、その代わりに、新しい父親になる人と、私の兄になる人ができたっ…」

それから私は、自分勝手に再婚した母親への反抗心から小学生の時家に帰らなかったり、家出して実の父親に勝手に会いに行くことを繰り返していたこと。
そんな私を見捨てずに唯一向き合い続けてくれたのが兄だけだったこと。…そんな兄に、いつしか特別な感情を抱くようになってしまっていたこと。

涙を流しながらそのことを伝える間、萩原くんは言葉に詰まる私の背中をずっとさすってくれ、静かに話を聞いてくれていた。

「…へん、だよね…血は繋がっていないとはいえ、お兄ちゃんを好きになるだなんて…っ、」

「何も変じゃないよ」

「……」

「だって、好きになる気持ちって自分ではどうしようもないから。

それに、誰かを好きでいられることや好きでいられる気持ちって、すげぇ幸せなことだって…俺はそう思うよ。

まあ、そのことに気づいたのは俺もつい最近なんだけどさ」

笑って涙を拭ってくれる萩原くんが、冗談でもなんでもなくとても輝いて見える。
絶対にマイナスな言葉ではなく、プラスの言葉をかけてくれる。
いつしか、そんな萩原くんの優しさやいつも笑顔でいる姿に救われている自分がいた。

「…でもさ、Aちゃん。
俺はAちゃんの気持ちを、手放しに肯定はできない」

きっと優しさで紡いでくれたであろう言いづらい言葉に、心臓がキュッと痛くなった。

何も答えられずにいると、一度体を離され諭すように両肩に手がのせられた。

困ったように笑った顔が、彼の優しさを表しているようで。

「このままお兄さんのことを好きで居続けたとして、それでAちゃんは幸せ？」

「……」

ずっと胸の奥にしまい考えないようにしていたこと。
…私は初めて、他の誰かにその現実を突きつけられた。

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