来世もまた恋をしよう。【萩原研二】 (ページ11)

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「Aちゃんこそ、どこかの帰り？」

見惚れていることを悟られないよう、平静を装ってそう聞いた。

「えっと…私はね、」

「……」

いつもみたく微笑んだように見えたが、無理していることはすぐに分かった。

「Aー！」

Aちゃんが言いかけたところで、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

一瞬体を揺らし、すぐにその男へ視線を向ける。

「(…ああ)」

…好きなんだな、この男のことが。ずっと、想いを寄せてきたのだと。

控えめに手を振りはにかんだ所、男を見つめるその瞳(め)を見て、一瞬でそう悟った。

「今、ユリのこと送ってきたよ」

走ってそばまでやってきた男は、他の女の名前を口にした。
まさか、2人の親密な雰囲気からしても付き合ってるんじゃないかと思った俺は、面食らった。

「そんなに急がなくても、2人でゆっくり帰ってって言ったのに…あのね、お兄ちゃん。こちら、萩原研二くん…先週私のことを助けてくれたお友達だよ」

Aちゃんがすぐに自分のことを話してくれ、友達だと伝えてくれたことに嬉しくなったと同時に、"お兄ちゃん"と呼んだことに内心とてもビックリした。

「ええ！君が萩原くん？！家でAから話は聞いたよ！」

「はは、はい…初めまして萩原です」

"Aのことを助けてくれてありがとう"と手を差し出してきたため、握手を交わした。
そのまま軽く自己紹介をしてくれ、ニコッと人の良さそうな笑顔を浮かべた。

どうやら、"春樹"と名乗ったこの人は、正真正銘Aちゃんの兄貴らしい。

「今日は、俺と妹と俺の婚約者で出かけてて、今はその帰りだったんだ。ま、Aが2人でゆっくりしてこいって気を利かせて先に帰って行ったんだけどさ」

「そうだったんですね」

俺がAちゃんに聞きたかったことを一思いに喋ったお兄さんは、そのまま彼女の頭を撫でた。

「Aは優しいからなぁ〜？」

「もうやめて、萩原くんの前で…恥ずかしいから」

その手から逃れたAちゃんが切なそうに目を伏せて微笑んだのを見て、冗談でも何でもなく、今までで一番胸が苦しくなった。

…叶わない恋をしているんだと。
そんな中でも、想いを寄せている相手とその婚約者が2人になれる時間も作ってあげるほど、Aちゃんは心優しいのだと。

「まあ、Aはこれからもずっと永遠にお兄ちゃんっ子だからな」

…悪気なくそう笑った男に、珍しく無性に腹が立った。

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