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声を出す間もなく、首筋に唇を寄せられた。


「っひ、」


ぺろっと火傷の跡を舐められ、すぐに唇で軽く挟まれた。

ピリッとした痛みと共に、内側から変な感覚に襲われて、体の力が抜けた。腰に腕が回り支えられ顔を上げると、いつもはニコニコと人当たりが良いのに、今は、まったく、毛程も、一ミリも笑っていなくて。
…いつもの姿よりも、こっちの姿の方が素に近いのではないかとさえ思った。


「……ん、?!」


戸惑っていると、少し乱暴に腰を抱かれて頬に手が添えられた。

…端正な顔が近付いてくるのを、ぼーっと見ていることしかできなかった。
























…私のことを突き放したのも…暗に自分が悪い奴で、別の目的があって私に近づいた…そう言ったのも、自分なのに。

…これも、私の過去を探るための戦略…?
私を自分に惚れさせて、いずれメリットを得ようと思っているの?

唇が重なったと自覚してすぐに、思い切り両手で体を押し返した。


「…さい…っ、てい…」

「……」


どうして私の言葉に、酷く傷ついたような顔をするの。
…分かっている。メリットを得ようなんて酷いことを考えられないから、そんな顔をしていることも。

"最低"という私の言葉に、彼は"ごめん"とだけ小さく呟いた。


「…これ…ポアロに忘れてたみたいです。
大事な物だと思ったので…」


すぐに少しだけ笑って見せ、トートバッグを私の手に持たせた。
無理して笑っているのなんて、すぐに分かった。

…だからこそ、なおさら彼の本心が、分からなかった。





























「_____Aさ〜ん!!!おはようございま〜す!!!」


待ち合わせ場所で座って待っていると、周りにいる人みんなに聞こえてるんじゃないかと思うほど大きな声が響き渡った。

立ち上がって振り返り、しーっとジェスチャーして見せるけど、ぶんぶんと腕をもげる勢いで振ってくる。
…私のことが大好きだった、いつの日かのあの子をふと思い出す。


「…あれ…Aさん…なんで笑ってるんですか…?」
 

今落ちあったばかりなのに、はあはあと息切れしている佐藤くんを見て、いつの間にか笑ってしまっていたらしい。


「さあね。…ほら、早く行こ!佐藤くん!」

「わ、待ってくださいよ〜!」


今日だけは…今日一日くらいは、辛いことも全て忘れて楽しめたら良いなと、雲一つない青空を見上げながら思った。

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柚葉(プロフ) - かえでさん» かえで様。コメントありがとうございます!すみません、今2と3の体裁を整えている関係で一時的にパスワード保護してます!まだ修正が済んでいませんが、読んでる途中に若干体裁が変わるのが気にならなければ、メッセージでパスワードをお送りします!いかがでしょうか? (8月25日 18時) (レス) id: 00a9d1680b (このIDを非表示/違反報告)
かえで(プロフ) - シリーズ2個目を読みたいンですけど無理でしょうか?パスワードがかかってるようで (8月25日 17時) (レス) id: bf6f1db929 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:柚葉 | 作成日時:2023年6月18日 14時

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