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二節目 ページ37

琉美は上機嫌だった。

今日は友人を家に招いての、ささやかなお茶会の日だ。

客人はテーブルに着き、お菓子とお茶を楽しんでいる。

その中で、エルナトが目をきらきらさせながら、焼きたてのベリーパイを食べていたのが、

ちらりと暖炉の方を見て、よかったのか、と琉美に声をかけた。

「何が、です?」

「あの本、気に入ってたんだろ?良かったのか、燃やしちゃって。」

エルナトはなんとはなしに聞いてきた。

その問に、琉美は笑って、ええ、と頷いた。

「私、もうあの本の少女騎士には、憧れません。憧れの人は、今近くにいますし。

 何より、あれを読んでいたって、私は、勇敢にも、何にもなれないから。」

琉美はミルクを入れた紅茶が入ったカップを、包むように両手で持った。

一口啜ると、華やかな芳香がすっと鼻を抜けて行く。

「私、あんな風になりたいんです。勇敢で、自分に自身が持てる、あの少女騎士みたいに。

 ……エルナトさん、みたいに。だから、その……。」

琉美はカップをソーサーに置いて、エルナトに向き直る。

「私、こんなだから、いつになるか分からないけど。後三年、魔法少女として、頑張って、

 すっごく立派な、魔法少女なります。最後に、私は頑張ったんだって、言える様に。

 もう、忘れて逃げたりしないように。」

うまくまとまらないなぁ、と頬を掻きながら、琉美はカップを再び手に取る。

エルナトは琉美の言葉を聞いて、そっか、と笑った後、ベリーパイをかじり始めた。

もうすぐ次のお菓子が焼きあがるころだろう。

琉美は席を立って、竈を覗きにいく。

手伝おうか、と聞こえてきた声に、うれしくなった。

まだ、卑屈で、自分を卑下することを、やめられそうにないけれど。

少しずつ、人は変われるだろう。

出来損ないだって、なんだっていい。

神様も、ヒーローも、もう待ったりしない。

自分の足で立って、ちょっとずつ、ちょっとずつ、前を向いて。

窓から空を見上げて見る。

泣けてきそうなくらい、綺麗な青空だ。

きっと、明日も明後日も、そのまた次の日も、素敵な友達と、大切な家族と、

こうして、楽しく笑えますように。

お菓子を催促する声が聞こえてくる。

琉美は、は−い、と返事をして、竈の中にあるお菓子を取りに行った。

今日も空は澄み渡り、水の色を映している。

そして明日も、同じ水の色を、映しているだろう。

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設定タグ:魔法少女は星に詠う   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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ゆずぽん(プロフ) - 実麗@受験生(建前)さん» あああ、ありがとうございます!そう言っていただけると幸いです……! (2017年11月26日 22時) (レス) id: 557f97ce01 (このIDを非表示/違反報告)
実麗@受験生(建前)(プロフ) - ゆずぽんさん» いえいえ!格好いいアクションシーンに一役買えただけでも嬉しいですし (2017年11月26日 18時) (レス) id: 58144b90d3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぽん(プロフ) - 実麗@今年の誕プレは9mm口径モデルガンだったさん» ありがとうございます!折角貸してくださったのに、出番少なくてすみません・・・・・・。 (2017年11月26日 17時) (レス) id: b5c0886d76 (このIDを非表示/違反報告)
実麗@今年の誕プレは9mm口径モデルガンだった(プロフ) - 完結おめでとうございます!アンタレスを使って頂いてありがとうございました〜*^^* (2017年11月26日 9時) (レス) id: 80fcad1283 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぽん(プロフ) - ありがとうございます!使わせていただきます! (2017年11月11日 20時) (レス) id: b5c0886d76 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆずぽん | 作成日時:2017年9月13日 0時

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