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18節目 ページ35

「あ……。」

病棟を出て、中庭に向かう道についてすぐ。

夜美と琉美は、鉢合わせた。

夜美は一瞬、息を呑んだ後、琉美をまっすぐに見つめた。

琉美も、夜美をまっすぐ見つめていた。

「夜美。」

琉美が口を開くほうが、早かった。

琉美は少ししゃがんで、車椅子に座っている夜美と目線を合わせる。

「心配かけて、ごめん。お家に帰ろう。」

琉美の言葉に、夜美が驚いたように目を開く。

どうして、と目で訴えてくる。

「どうして。怒らないの?」

震える声で問う夜美に、琉美は首を横に振って、静かに言う。

「怒られるのは、お姉ちゃんの方。」

ごう、風が吹いて、かっこつけてばかりの〈魔法少女〉のケープを揺らしていく。

さらさら、と木々の葉が鳴っていた。

「ずっと甘えてた。隠してくれてる夜美に。お姉ちゃんって呼んでくれる夜美に。

 怖くて、情けなくて、何も出来なかったのが嫌で、ずっと忘れてた。ずっと、ずっと。」

最後の一言は、思っていたより、するんと咽喉から出てきた。

「ありがとう、夜美。」

その一言で、夜美は顔をさげて、俯いた。

華奢な肩が震えている。

「……酷いや。」

夜美はぽろりと言葉を溢す。

「酷いや。私が、言おうと思ってたのに。先に全部言っちゃうなんて。」

「あはは。姉妹だからかな?考えが似ちゃうのかもね。」

琉美は夜美を抱き締めながら笑った。

震えている小さな身体が、伸ばしてくる細い腕が、こんなにも愛おしい。

これが家族以外の、なんであるだろうか。

「私も、怖かった。全部思い出したら、もう『お姉ちゃん』って呼べなくなるんじゃないかって。

 呼ばせてもらえなくなるんじゃないかって、怖かったの。『妹』で、いたかったの。」

「うん。ごめんね、夜美。心配かけてごめんね。」

「私も、ごめんなさい。ごめんなさい、お姉ちゃん。」

二人は泣きあって、笑いあった。

夜美をなでる琉美の手は、間違いなく『お姉ちゃん』のそれで、

撫でてくれる琉美の手に甘える夜美は、間違いなく『妹』だ。

血も繋がっていない、生まれた場所も同じではない。

それでも確かに、二人は『家族』で『姉妹』だ。

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設定タグ:魔法少女は星に詠う   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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ゆずぽん(プロフ) - 実麗@受験生(建前)さん» あああ、ありがとうございます!そう言っていただけると幸いです……! (2017年11月26日 22時) (レス) id: 557f97ce01 (このIDを非表示/違反報告)
実麗@受験生(建前)(プロフ) - ゆずぽんさん» いえいえ!格好いいアクションシーンに一役買えただけでも嬉しいですし (2017年11月26日 18時) (レス) id: 58144b90d3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぽん(プロフ) - 実麗@今年の誕プレは9mm口径モデルガンだったさん» ありがとうございます!折角貸してくださったのに、出番少なくてすみません・・・・・・。 (2017年11月26日 17時) (レス) id: b5c0886d76 (このIDを非表示/違反報告)
実麗@今年の誕プレは9mm口径モデルガンだった(プロフ) - 完結おめでとうございます!アンタレスを使って頂いてありがとうございました〜*^^* (2017年11月26日 9時) (レス) id: 80fcad1283 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぽん(プロフ) - ありがとうございます!使わせていただきます! (2017年11月11日 20時) (レス) id: b5c0886d76 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆずぽん | 作成日時:2017年9月13日 0時

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