【魔法少女は星に詠う】水鏡に映るは哀か、それとも愛か。【企画派生作品】 (ページ34)

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琉美は未だに、床にへたり込んだままでいた。

頬の中が切れて、鉄の味がしている。

ぼんやりと部屋を見回す。

ふと部屋を見回してみると、ベッドの上に、小さな赤色の包みが放り投げられていた。

ふらふらと歩み寄ってベッドに座り、その包み紙をあけてみる。

「あ……。」

中に入っていたのは一枚の手紙と、自分の武器であり、宝物でもある、ガラスの水鉄砲だ。

綺麗な状態のそれは、おそらく、友達のミルファクが、魔法で直してくれたのだろう。

手紙は彼女らしい、流麗でちょっぴり神経質な文字が連なったものだ。

琉美は、目の奥が熱くなるのを感じた。

口の中にはまだ、鉄の味が残っている。

(……おいしく、ないや。)

どこか場違いなようなその思考が、どんどん連鎖していく。

(美味しいお茶と、お菓子が食べたい。ああ、皆で、お茶会したいな。

　エルナトさんとか、アルタイルさん、カペラさんも、アトリアさんも、

　美味しそうにお菓子を食べてくれたっけ。
　
　アルビレオさん、学校でお菓子をあげた時、嬉しそうに笑ってくれたな。
　
　リゲルさんとか、ルムジムさんも、優しかったな。

　メリクさんが寝落ちしそうになると、スウドさんが慌てて机からお茶とお菓子をどけて。

　ミルファクさんとか、マイアさんとは、本の話をよくしたな、楽しかった。)

友人たちのことがふわふわと頭に浮かんでは消える。

「夜美。」

いつも、笑って、お姉ちゃん、と呼びかけてくれた、唯一の、愛しい『妹』。

食事のときも、お茶の時間も、本を呼んでいる時も、彼女は笑っていた。

その朗らかな笑顔に、自分は何度も、何度も救われたのだ。

(もし、死んだら。)

もし自分が死んだら、もう、会えない。

優しい友人たちにも、大好きな妹にも、会えなくなる。

まっすぐに自分を見つめてくれた瞳が、二度と見れなくなる。

「それは、イヤだな。」

ポツリと呟く。

会えなくなるのはイヤだ。自分がこの世から消えるのはイヤだ。

誰のぬくもりにも、笑顔にも触れられなくなるなんて、絶対に、絶対にイヤだ。

ふと枕元を見る。

そこにある、一冊の本。

内容なんて、もう見なくたって分かる。

くしゃついてしまったケープを羽織りなおす。

行かなくてはならない。

幾度となく開いたその本を、琉美はそのまま置いていった。