壁 ページ11
ピ、と私のパスモが反応する音に続き永瀬のパスモが反応する音が続く。
歩く方向は同じだ。
「なあ、A」
『ん？』
「…今度、パンケーキ食べ行かへん？」
『パン、ケーキ…』
そういえば、私は昔パンケーキが大好きだったなとふと思い出した。
なんなら永瀬に将来パンケーキ屋さんになる！とか言ってたほどだ。
しかしそれは過去形であって今はどちらかと言うと嫌いの部類に属する。
『あー、ごめん、パンケーキそんなに好きじゃない』
「…好きじゃないん？パンケーキ屋さんになるとか言うとったのに」
『…はは、昔の話だよそんなの。』
私たちが知ってるお互いのこと全てが昔のことなのだ。
彼が好きだった食べ物。
私が好きだった食べ物。
彼が嫌いだった食べ物。
私が嫌いだった食べ物。
好きだったこと、嫌いだったこと。苦手だったこと、得意だったこと。
私が知ってる永瀬に関する信憑性の高い情報なんて外見的なことでしかない。
背が高いとか、声が高いとか、変に訛ってるとか、…誕生日とか。
「昔、ねぇ。」
『よく覚えてたね、そんなの。私も忘れてたよ』
「Aのことは全部覚えとる」
その言葉にえ？といつの間にか車道側を歩いている永瀬の顔を見上げる。…こんなに身長差あったっけ。私は女子の中では割と背が高い方だし身長には自信がある。…が、ここまで差があるとは思っていなかった。
昔は私より小さかったのに、昔は私より弱かったのに。
私から顔を前に向けて歩き出した永瀬は懐かしむように、昔の私に笑いかけるように話し始めた。
「Aはパンケーキが大好きで、野菜が大嫌いで。鬼ごっこが大好きで、お昼寝の時間が大嫌いで───」
『いい、もう、いいから』
それが、嫌だった。
「…A」
『これ以上昔を掘り返さないで、お願いだから。』
仲が良かった頃の私を思い出させないで。
全て変わってしまった。
パンケーキは嫌い。でも野菜は好き。
鬼ごっこは嫌いだけどお昼寝は好き。
私じゃない私を、優しい目で見つめないで。
永瀬が知ってる私は私じゃないんだよ。
あの頃の私はもう居ないんだよ。
それから、家まで何一つ言葉を交わさなかった私たちの間には大きな、大きな壁があるように感じた。
それはもう、埋めることの出来ない10年間の空白を物語っているようだった。
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さくさくぱんだ(プロフ) - 完結おめでとうございます！読み度涙が止まりませんでした…。続編是非読みたいです!!!! (2020年1月3日 5時) (
レス) id: e39a486ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ふみか(プロフ) - 完結おめでとうございます。続編本当に待ってます！！！！！！一生のお願い！笑笑 (2019年12月15日 23時) (レス) id: cdb1cf462c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - 完結おめでとうございます！afterstoryぜひ読みたいです☆ (2019年12月15日 15時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
寧々(プロフ) - 思わず一気読みしてしまったんですが、泣いてしまいました(;o;)是非after story読みたいです！ (2019年12月15日 13時) (レス) id: dfd709edb9 (このIDを非表示/違反報告)
ちな - 完結おめでとうございます！最後キュンキュンもしたし、涙も出てきて………時間があるのなら、アフターストーリー読みたいです！楽しみにしています！！ (2019年12月15日 9時) (レス) id: 047315094b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柚木 | 作成日時：2019年10月16日 22時
