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ページ33

いやだ、いやだ、私は何にも悪くない!

革靴が土瀝青を蹴って前に進む。制服のスカートが潮風と追い風に吹かれて大きく靡いた。
いやだ、いやだ、だって、どうしてわたし、ねぇ、聞いていたのと違うじゃない!

電話しようとブレザーに手を掛けたが、学校鞄をアレに放り投げた時に携帯もあの中に入っていたことを思い出して、思いっきり歯軋りをする。

ついてない、の一言ではどうも済まない。
走る少女は、自分の聞いていた情報と現実の食い違いに嘆いて泣いていた。
流したくもないのに恐怖と悔しさと後悔で涙がほろほろと流れた。

誘拐事件の概要が頭の中を巡る。無能な軍警が提示した情報とは違い、信用できる筋から外資系企業の社長である父親が入手した情報だ。

実行犯は四、五人の人間といっていた。
馬鹿なんじゃないの!少女は心の中で罵倒する。
そんな嘘、誰が言い始めたの!あれは人間なんかじゃない!あれは、あれは化け物よ!!!!

どうして私が追いかけられなくちゃいけないの?!どうして、何も悪いことなんてしていない。あれをしってしまったことの、なにがいけなかったの?

わたしは、悪いことなんて何もしていない!しているのはアイツ!アイツアイツアイツなのに!!!

「ハァっ…!ハァっ…」

息が切れる。自分の足音の他に、もう一つの足音が聞こえることの恐怖。迫ってくる即物的な死。心臓が肋骨の中で暴れ回り、奥歯がガタガタと食い違う。

足が棒になってきたところで、少女は近くの倉庫街に入り、丁度空いていた倉庫の物陰へと滑り込んだ。
足が震える。

(しにたくないしにたくないしにたくないしにたくない)

壁によっかかることも怖くてできない。まるで金縛りのように固まった体を動かすのは相当の勇気を要した。
こわい、しにたくない、いやだ、どうしてわたしが、わたしはなにもしていないのに。


ぴた。と、すべての音がやんだ。
あいつの足音も、潮風も、気味が悪いほどすべてが止まった。

(……行ったのかしら)

ほっとした少女はベッタリと汗が這う背中を壁に寄りかからせはぁ、とため息をつく。
こわかった、全く嵐が去ったあとだというのに息も鼓動も上がりっぱなしだ。

(よかった、やったわ…わたし、生きてるのね…)

逃げおおせた喜びで、頬がほころんだ。
そうして深くもたれかかり、灰色の混凝土の天井を見上げた。








「みぃつけた」

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しほ - こんばんは。更新楽しみにしています! (2020年9月27日 23時) (レス) id: 9cd3767a9b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 更新、楽しみにしています。ゆっくり頑張ってください。応援してます。 (2020年9月20日 8時) (レス) id: c803c24e20 (このIDを非表示/違反報告)
BB89 - 更新、楽しみにしています! (2017年3月31日 8時) (レス) id: 49815f1b74 (このIDを非表示/違反報告)
BB89 - 面白いです。 (2017年3月22日 0時) (レス) id: 49815f1b74 (このIDを非表示/違反報告)
- イッキ読みさせていただきました!とっても面白いです!これからもがんばってください (2017年2月24日 22時) (レス) id: 70dae8966d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒蘭夢 | 作成日時:2017年2月23日 3時

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