曲解生命【太宰治】

通知 ページ24

一言で云えば、正気の沙汰では無いと思った。
こんな事までして私を調査に引き摺り出したいかと思うと、頭がくらりとする。

『人事異動…って、態々、この為に？』

｢前々から話では出ていた。今がその時だっただけだ｣

『異能が無くても構わないと』

｢ああ｣

社長は顔色一つ変えず、一度頷く。
前々から出ていた、爆弾犯騒ぎの時から出ていたと考えれば、かなり吟味されているとは思うのだが………

(女学校への潜入役が私だと、メリットがあるのか)

このメリットは私でも易々と考えられる。
一つ目は女性であること。
二つ目は、調査員で無いこと。

調査員だと日々様々な恨みを買って、顔が割れている可能性があり、折角の潜入が台無しになる事も無くはない。(実際前にあったから生々しい)

『拒否することは可能ですか』

｢構わん｣

意外とあっさりなのか、へー、と心の中で声を漏らし、どうしようかと悶々と考える。
ちらりと見ると、社長は全く変わらない顔色でお茶を一口啜ると軽く息を吐いた。

『大変有難いのですが、私には荷が重過ぎる故、お断りさせて頂きます』

｢そうか｣

先程から一言二言で成される会話のキャッチボール。無駄に相手の機嫌を伺う必要は無さそうで、心が軽い。

『…調査員にはなれませんが、潜入役は遣らせて頂きたく思います』

深々と頭を下げた。
これでも探偵社員の端くれとして、できる限りの事はしたい。
(それに、さとみのことも、あるし)

｢そう云って貰えると助かる｣

ここまで来て無表情だった社長の雰囲気がほんの少しの緩み、ひりひりとした空気が朗らかになった。結構態度に出る人なのか、と上目で見ると少しだけ、社長が嬉しそうにしていて。

(成程、乱歩さんが引っ付いてる理由も分からなくないな)

納得した。

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