追想 〜慚愧の想い〜 ページ44
京都から帰り、悟と一緒にお土産のプリンを伊地知くんに渡したら、涙ながらにお礼を言われた。
今までどれだけ悟に無理難題を押し付けられていたんだ…
そして、当然のように教員寮の私の部屋に帰る悟と、いつも通り二人で眠りについた。
その日の、寝静まった深夜──…
「傑！ 行かないで！！」
自分の叫び声で目が覚めた。
ドキドキと心臓が重たく波打っている。
悪夢…
未だ引きずっている、昇華できない想い。
昼間見かけた傑の姿が、過去を呼び起こし記憶が錯綜する。
「どうしたの。悪い夢でも見た？」
「私…傑のところに行かなきゃ…！」
突然起き上がったせいでクラクラする頭と、よろめく身体のバランスを取りながら、力を振り絞り立ち上がった。
…つもりだったけれど、実際はベッドから足を下ろしただけでそれ以上は叶わず、悟の腕の中に包まれ支えられた。
「寝ぼけてる？ 大丈夫…僕がいるよ」
悟がふわりと抱きしめ、焦り泣きじゃくる私を宥めるように背中をゆっくりと撫でる。
心地良いけれど、これは私の求めている温もりじゃない。
「嫌…傑じゃなきゃ…やだ…ッ！」
「A…落ち着けって…ほら、深呼吸──」
「──離して！ 傑のところに行かせて！」
──パシッ…！
悟の腕の中でもがいたら、手の甲で悟の頬を叩いてしまった。
ハッ…として見上げると、叩かれたまま横を向き傷ついた表情の悟が、一瞬目をつぶりギュッと唇を引き結んだ。
「あいつは、もう…ッ…いねぇんだよっ！！」
抱きしめる腕に力が込められた。
腕の力と言葉の強さに反して、後に続いた悟の言葉は…
「いい加減…分かれ…ょ…ッ」
悟にしては珍しく、千々に弱々しくなる言葉尻。
泣き叫びたいのを必死で堪えているみたいな、喉を詰まらせた切ない涙声。
口調が昔に戻り、傑のことは忘れろと、諦めて聞き分けろと全身全霊で訴えてくる。
「……ごめん……」
「…それ、何に謝ってんの？」
何に…かな…？
色々全部に…だと思う。
取り乱して子どもみたいに聞き分けなくて。
悟を困らせて傷つけて。
いつまでも傑を忘れられなくて…
往生際の悪い想いに押し潰されそうで、悟の底なしの優しさに寄りかかりたくて仕方ない。
でも…そんなの…ダメだよ…
悟の優しさを利用しちゃ…ダメ、絶対。
これ以上、悟に迷惑かけないようにしないと…
「ダメだよ悟…いつまでも私なんか庇って優しくしてたら、呪術界での悟の立場が悪くなる。それに…私…傑を忘れられない…ッ…だから──」
「──俺を見ろよ…っ！！」
私の深く沈む負の感情を両断する
悟の憤りに満ちた声が響いた──…
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
