90 ここにいるよ ページ41
京都に来てから少し距離を置かれている気がして、不安になった。
なんだか、悟が遠くに行ってしまいそうで凄く怖くて…
だから昨日の夜、このままずっと傍にいて欲しいって思ってしまった。
『…ね、悟…眠るまで傍にいてくれる…？』
意を決して…
でも躊躇いがあって、小さな声で言った言葉。
なのに…
『…うん…ここにいるよ』
私の声はちゃんと悟に届いていたらしく、あっさり受け入れられて、
『おやすみ』
恥ずかしくてすぐに目を閉じた。
『…うん、おやすみ…』
歌うように流れてくる艶やかな声。
頭を撫でる大きな手の温もり。
規則的なソレに意識が少しずつ薄れていく。
悟の傍はなんて心地良いんだろう。
ゆったりと柔らかくて、何者からも護ってくれる…
そう確信できて、凄く安心する──…
＊
頭を撫でている僕の手に身を委ねていたAから、すやすやと微かな寝息が聴こえ始めた。
「…ほんと…可愛い…」
７年間、外界から遮断されていたAは、精神面の成長が年相応ではなく、姿を消したあの頃のまま、あまり成長していないっぽい。
大人としての判断や決断に必要な情報を、７年間与えられないと、純粋で綺麗な心のままいられるようだ。
そう結論付けるほど、極端な思想を持っていた傑と一緒にいた割に毒されていないし、他人を疑うことをしない。
だから…
京都の街を散策中、伊地知からの電話でほんの少し離れている間に、
「こんにちは」
「…こんにちは…」
「突然スミマセン。僕、一人旅をしてるんですが、この場所、どう行くか分かりますか？」
「え…っと…私も、この土地の者ではないので…」
ただのナンパにも、そうと気づかず律儀に対応してしまう。
経験も少なく免疫もないから、隙があってつけ込まれやすい。
「じゃあ、一緒に探してもらえませんか？」
「はぁ…でも、私に見つけられるかどうか──」
「──この子に、何か用？」
「あ、悟…ひゃっ…」
話に割って入り、Aの肩を引き寄せて恋人風を装った。
Aが驚いて小さな悲鳴を上げたけれど、僕は目の前の男から視線を外さない。
大抵の奴は、僕の威圧する視線だけで逃げ去って行くからね。
「ただ道を聞いていただけなので…じゃあ、僕はこれで…」
『…んだよ。ツレいんのかよ…』
去り際にボソッと溢した不満を、僕は聞き逃さなかった。
ほらね、やっぱり丸め込もうとしてた。
「悟…そんな威嚇しなくても…」
「あれはナンパだよ。純粋に道を聞いてきた訳じゃない」
「え…そう、なんだ…」
キョトン顔で僕を見上げるA。
はぁ…もっと警戒心を持って欲しい…
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
