83 根回し手回し ページ34
「Aさん。そろそろ五条さんの任務に同行しますか？」
「え、いいの？」
「はい。一通り、１級と特級クラスの任務については説明しましたし、１級トップの七海さんや他の１級術師の方々の任務同行にも問題ありませんし」
それは、七海くんが優秀だからだと思う。
私に負担をかけないよう、めちゃくちゃ気を遣ってくるジェントルマンだから。
なんてハイスペックに育ったんだ…と、感慨深かった。
他の術師の人も、私が悟の同期だと知っているからか、我儘や無理難題を言わないし、なんなら逆に私が持ち上げられて気を遣われている。
「悟の任務、同行したいです」
「では30分後の14時に出発です」
「はい、分かりました」
「ちなみに五条さんは、最低５分は遅刻しますので、いつも10分早めで出発時間を設定してます」
「そう、なんだ…」
何やってんの、悟。
確かに、昔から時間にルーズではあったかも。
自由というか、時間に縛られないというか…
「で、悟は今どこに…？」
「休憩すると言っていましたが、どこにいらっしゃるかは…」
「うん、分かった。ありがとう」
「へ…？ あ、いえ…」
伊地知くんは驚きの表情で、補助監督室をあとにする私を見送ってくれた。
＊
「やっぱり、五条さんに似てる…」
先ほどのAさんの言い方を思い返し、怯えと歓喜の入り交じった不思議な気持ちになる。
『うん、分かった。ありがとう』
もう何年も何回も聞いた、五条さんのお礼の言い方。
こちらが1から10まで事細かに話さなくても、五条さんには少ない情報で状況を読み解ける能力が備わっている。
その上での『うん、分かった。ありがとう』は、私に何度も安心感を与えてくれた。
軽い調子で言うのも、こちらを不安にさせないためだと私は知っている。
そして…
『君、今日Aと任務なんだって？ アイツのこと、よろしくね♪』
と、根回し手回し術師を牽制している姿も見慣れた光景になった。
五条悟に直接、意味深な“忠告”をされてしまえば、Aさんに下手なことは出来ない。
中には任務後、魅惑的な彼女を誘惑しようと画策していた者もいる。
けれど五条さんはいつも、たった一言で疚しい謀略を阻止していた。
Aさんはその事実を知らない。
私もきつく口止めされている。
真面目な低い声音で『Aには絶対に言うな』と…
私から見れば、どう考えても想い合っている二人がもどかしくて仕方ない。
Aさんは無意識、五条さんは意識的だからか…
「今日の任務同行で、関係が少し変わるといいですが…」
必要な資料とタブレットを抱え、私も補助監督室を出て扉を閉めた。
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
