53 囚われる ページ4
たっぷり十数秒の沈黙が、私の心を黒く染めようとしたその時。
小さく息を漏らした傑が、ゆったりとした口調で呟いた。
「…仕方ないな…ついておいで…」
「傑…」
本当に…？
私を受け入れてくれる…？
そんな想いを孕んで見つめた先では…
傑が酷く困ったように優しく微笑んでいた。
久しぶりに見た、傑特有のその笑顔に、私の頬も緩んでいく。
「そんな風に縋られたら、さすがに振りほどけないからね」
「…ごめん…」
仕方ないから…って事だよね…
傑にとっては、自分の身も自分で護れないような小動物に縋られているのと変わらない感覚なんだ。
うん、分かってる。それでもいい。
「でも悪いけど…私は意外と忙しいんだ。君に割く時間はないかもしれないよ？」
「うん…それでもいいの…傑の傍にいたい…」
そう答えた私に、傑はまた小さなため息を溢した。
学生の頃よりも、雰囲気も態度も横柄で冷たい。
何も我慢せず、誰にも遠慮せず、周りに気を遣わず…
ありのままの自分でいるせいかもしれない。
もしくは、私を諦めさせるため…だったり…
それでも私は…
どんなに冷たくされても、
どんな酷い態度で応えられても…
どうしても、傑の傍にいたいの。
さっきまで冷たい視線を浴びせていたくせに、握られ引かれる手は温かい。
しっかりと傑の手の中に囲われて、もう離さないと言われているみたいだ。
それだけで、単純な私は嬉しくて舞い上がる。
自分でも簡単な女だと思うよ。
だからどうしても探してしまうんだ。
傑の本音は、一体どこにあるんだろう…？
＊
「はい、着いた」
「ここは…」
「私が隠れ住んでいる宗教施設さ」
渋谷の路地に引き込まれてすぐに、傑が所持している呪霊の背中に乗って空高く飛び上がった。
山を何個も越えた先にある、山奥の建物に誘われ…
「ここを、今日から君が過ごす部屋にするよ」
ワンルームくらいの広さがある部屋に押し込まれた。
そして、
「携帯、出して」
言われるまま素直に制服のポケットから差し出すと…
「これは預かっておく。今日はここから出てはいけないよ。いいね？」
「うん…」
私には頷くしか選択肢はない。
傑の全てに従うと決心してここに来たんだから…
「いい子だね。素直な子は好きだよ」
そんなリップサービスだって、私にはご褒美になる。
一番近くにいなくてもいい。
私を一番に考えてくれなくてもいい。
ただ、同じ空気を吸って
同じ匂いをかいで
同じ景色を見て
同じ世界に生きて
一緒に笑い合っていたいだけなの──…
たとえ…
あなたを愛することが
罪だとしても──…
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
