追想 〜目覚め〜 ページ24
『A。そろそろ起きないと、悟が寂しがりすぎて死んでしまうよ』
悟が…寂しくて死ぬ…?
ふふっ…そんなわけないじゃない。
『嘘だと思うなら、早く目を開けて、目の前の男をちゃんと見るんだ』
何、言ってるの…?
私の目の前には傑しかいないよ?
『私は…Aが目覚めたら消えてしまう存在さ。気にしなくていい』
やだ。
傑が消えちゃうなら、私…もう、目を開けない。
『ダメだよ。君は生きるんだ。…しっかり目を開けて、ちゃんと世界を見て、生きていって欲しい』
傑が居ないのに?
私一人じゃ生きていけないよ…
『悟がいるだろ。…悟なら…Aを幸せにしてくれる』
悟…
何も言わずに居なくなった私のこと怒ってるよ。
『そんなことはないさ。抱きしめてくれただろ?』
きっと許してくれない。
悟はああ見えて本当は、真面目で純粋だから…
『そうだね。私達とは違って…正しくまっさらで眩しい存在だ』
でしょ? だから…
『だからこそ、悟と一緒に居れば、君は大丈夫』
そんな…傑が居ない世界なんて…
ねぇ、傑…もう逢えないの?
もう一度、逢いたい…ッ
『ごめん…でも…──…──…』
え? なに?
聴こえないよ?
『…あぁ…すまない。もう時間だ。じゃあね、A』
待って!
おいて行かないで…っ!!
『こら、ついてきちゃダメだよ。Aは、あっち』
やだ!
私も傑と一緒に行く!
『ほら、光が見えるだろう?』
いや! 光なんて見たくない!
一緒に連れて行って!!
『A……またね。』
待って! お願い…ッ!
行かないで!!
一緒にいて──…
.
.
.
「……す……る……」
「…A?」
私を呼ぶ声…
ずっと長い間、この声を聴いていた気がする。
この声は…
「…さ…ト…る…」
「うん。僕だよ、A」
「…ずっと…?」
「うん…ずっと、待ってた…ッ」
かすれた声しか出ない干からびた私とは対照的に、目の前には懐かしい潤いに満ちた煌めきがあった。
サングラス越しじゃない悟の、歳を重ねても未だに澄んだ瞳は朝陽に照らされて、いつか傑と眺めた綺麗に輝く海みたい。
疚しい思いなんて何もない、清々しいまでの清廉な美しさ。
『曇らせてはいけない』
そう、思わせられる。
多分、傑もそう言いたかったんだ。
自らが悟を曇らせてしまったから…
「水、飲める? 支えてるから、ひとくち頑張って」
肩を抱かれて起こされ、水が注がれたコップを私の口元に差し出す悟に甘えて、コクリと久しぶりの潤いを喉に流し込んだ。
*
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2022年12月24日 9時