70 覚悟の告白 ページ21
夜には戻ると言っていた傑が、真夜中に近づいても一向に帰ってくる気配がなかった。
窓の外を眺めても、その姿は目に映らない。
嫌な予感と胸騒ぎで寝付けず、真っ黒な画面のスマホを見つめてベッドに座り待ち続けていた。
数時間後。
不意にドアが開けられ、傑を出迎えようと立ち上がったら…
現れたのは待ち人ではなく、懐かしい記憶を呼び覚ます人。
悟だ。
どうして悟がここに…？
＊
逢いたくて逢いたくて、逢いたくて…
写真で眺める妄想だけじゃ物足りなくなっていた。
触れたくて抱きしめたくて、花が咲いたような笑顔を見たくて…
柔らかな温もりと甘い香りを感じながら、可憐な声を聴きたくて仕方なかった。
怒った声だって、悲しみ責める声だって何だっていいから、この耳に届く距離で、同じ時間を過ごしたかった。
手の届く距離で、護ってあげたかった。
そんな何よりも大切で心焦がれた女の子が今、俺の目の前にいる。
たったそれだけのことが嬉しすぎて、伝えなければならない言葉が追いつかない。
これから受ける激情を考えると、震える唇を引き結ぶことが精一杯で、最初の一言がなかなか出てこない。
怯むな。
今更怖じ気づくなんて情けねぇ。
自分の罪は散々思い返して、とうに納得したはずだ。
どんな批難も拒絶も、全部受け止めるって決めただろ。
心を奮い立たせてもう一度、嫌われる覚悟を引きずり上げた。
俺を真っ直ぐ見つめてくるAは、記憶の中よりも大人びて妖艶で愛らしい。
非術師への憎悪を己に言い聞かせて突き進んでいた傑が、うっかり骨抜きにされたのも頷ける。
こんな風に真正面からじっくりと、Aを見つめることは学生の頃から一度も無かった。
傑に遠慮していたあの頃。
もしAを直視してしまったら、制御できない想いを
だからいつだって俺の位置取りは、Aの真横か、背中を向けて前にいた。
真正面から向き合うだけで、こんなに緊張するなんて…
「…悟？」
久しぶりに可愛い声で名前を呼ばれて、すぐにでも抱きしめてしまいたい衝動を抑え込む。
「A、ごめん…」
口火を切ってくれたAに便乗し謝罪から始めれば、その後は流れるように言葉が溢れ出た。
「傑はもう戻らない」
「…え…っと…何？ どういうこと…？」
当然Aは、何のことか分からず困惑気味だ。
「傑は……俺が殺したんだ…ッ」
詰まりかけた言葉を無理やり絞り出したら、喉が腫れたように痛んだ。
目を見開いて絶句し固まるAに近づき、華奢な身体をそっと、両腕の中に囲い抱きしめた。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
