64 決意の微笑み ページ15
「…オレ…行かなきゃ…」
「……。」
決意したはずなのに、言葉尻が揺らいだ。
自信無さげにポソッと呟いた俺を、静かな熱い眼差しが射抜く。
昔から…今もこの無言の圧力は健在。
グラサンで視線の先はどこか分からないのに、絶対に自分を凝視しているという感覚がはっきり伝わる。
学生だった頃、何度となくこの押し潰すような視線に震え上がった記憶が蘇り、懐かしさに小さな笑いが零れた。
「学長…僕の大切な生徒達を助けに行くだけですよ」
「…本当に…それだけか…？」
「ええ、もちろん。でも…」
夜蛾先生は知っているはずだ。
俺が、呪詛師・夏油傑の死刑執行人だってことを…
だから、目隠し代わりの包帯を取り払い、逸らすことのない俺への視線を受け止めて、真っ直ぐ見つめ返した。
「…でも…なんだ…」
「でも…もし、傑を見つけたら…」
「……。」
「…ッ……俺…ちゃんとケジメつけるよ…先生。だって俺、もう先生と同じ教師、だからさ。まっさらな心で生徒に胸張っていたいんだ」
「…悟…ッ…すまん…」
夜蛾先生は俯いて両手の拳を、小刻みに震えるほど強く握りしめた。
そんな力任せじゃ、爪が食い込んでいるだろう。
強面の見た目の割に、繊細で優しいんだよな…この人。
はぁ…まったくさぁ…
「…なんで、先生が謝んの」
呆れ笑いの吐息が吐き出され、慰めの言葉が口をつく。
先生が謝る必要、どこにもないよね？
あの日。
傑が呪詛師になって辛かったのは、夜蛾先生だって同じだ。
「お前達の担任だった俺が…不甲斐ないばっかりに──」
「──先生」
何かを察知して、咄嗟に夜蛾先生の言葉を無理矢理、強めの声音で断ち切った。
なんだ…？
自分の恩師に、後悔のセリフなんて言わせたくねぇ。
「これは、俺と傑の問題だ」
意図的に突き放す言い方を心がけた。
夜蛾先生を、蚊帳の外に出してやりたかった。
生徒の…子供の喧嘩…と言うには盛大だけど、とにかくそれに大人が介入するべきではない。
子供同士で争い話し合い、自分達で結論を出し、解決する。
それを見守る事こそが
明確に言葉にはしなかったけれど、夜蛾先生はいつだって、どんな難問だって、自分は一歩下がって俺達自身に考えさせ、俺達自身に答えを出させ解決させてきた。
だから…
「10年前、逃げて目を逸らしたツケが今、回ってきただけ…」
それが紛れもない事実。
けど、心配で心臓が潰れそうになるのも、今の俺には理解できる。
「…悟……それでも俺は…お前に…手をかけて欲しくはない…ッ」
張り詰めて零れた本音は、微笑みで受け止めた。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年12月24日 9時
