6 大人の階段 ページ6
「帰りましょう」と、二人に声をかけてお店を後にした。
公園の遊歩道まで無言で歩いてきたところで足を止め、少し後ろを歩く悟さまを振り返って向かい合うと、冬の冷たい風が頬をかすめていく。
悟さまと一緒に歩いていたはずの傑くんは、彼なりに気を利かせたようで、いつの間にか姿はない。
未だに機嫌悪く眉根を寄せている悟さまは、不自然に顔を横に向け、私から目線を逸らし地面を見つめていた。
きっと、私と傑くんの会話を盗み聞きしていた事が後ろめたくて、私と言葉を交わすのもバツが悪いんだと思う。
悟さまへの想いを自覚してから、そんなところも可愛いと思ってしまうんだから、私も遥香さんに負けず劣らず『悟さま』に溺れてしまっていた。
「悟さま。帰ってから…お話ししましょうか」
人通りは少ない時間、街灯が照らす中で私と悟さまの二人きり。
口火を切った私に、悟さまはやっと視線を合わせてくれた。
「…話してくれんの…?」
「はい…今まで理不尽に逃げていて申し訳ありません」
ご正室修行で習った丁寧なお辞儀をすると、仏頂面の悟さまは小さく息を吐いた。
悟さまの真っ白な髪に、スポットライトのように照らす街灯のオレンジ色が混ざり合う。
「今日は逃がさねぇから」
「それは…その…要相談、ということで…」
「…話は聞く。けど、内容次第では寄り添えねぇ」
「…ふふ…はい、ありがとうございます。…悟さま、大人になりましたね」
「…るせぇ…」
頭ごなしに『却下』と否定せず、私の意見にも耳を貸してくれるようになった悟さまが、少しずつ大人になっているのを感じて胸が温かくなった。
来年6月、18歳になって半年後、高専卒業を待たずに五条家の当主になることが決定していて、実は悟さまもこのところ、五条家の現当主に付いて、ご当主としての振る舞いや職務を実践で勉強している。
おそらくその教えの中で学んだ『おとな』としての対応や対処法が、悟さまに浸透したんだ。
普段は不真面目な態度を貫いているけれど、ふざけていても基本的に何でも出来てしまう人だから、当主としての勉強も苦ではないようだった。
「俺も……最近、家の事とか任務とかで毎日忙しくて、お前とちゃんと話せなかったから…ゴメン…」
「そんな…悟さまは悪くないです」
「……なぁ…それ、やめねぇ…?」
「え?」
唐突に会話が噛み合わなくなって、気の抜けた声が出た。
私の緊張感のない緩んだ顔を横目で流し見た悟さまは、再び前を向き、長い足に任せて大股で歩き始める。
「ちょ…悟さま! ソレって何ですか!?」
去年より一段と大きく逞しくなった背中を慌てて追いかけた。
*
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年12月24日 18時