5 言い争い ページ5
咄嗟に頭に浮かんだ、
『それは遠慮します』
悪魔の提案を断る言葉を声に出す寸前で、
「そんなんダメに決まってんだろッ!! ふざけんなよ傑!!」
聞き覚えがありすぎる声は、直接耳に響いた。
聴こえた方に視線をやると、穏やかな店内に似つかわしくない、怒りを露わにした悟さまが肩を上下に荒い息を吐き出していた。
え、悟さま!? 本体!?
とか失礼な考えをかましていたら、
「悟こそ、出てきちゃダメじゃないか。これからが楽しいところだったのに」
傑くんが冷静に胡散臭い笑顔で応戦。
悟さまにとっては煽りにしかならない。
これから二人が言い争うのは間違いなし。
まぁ…いつも通りといえばいつも通りで、平和of平和だ。
「俺はそこまで頼んでねぇし許してもねぇんだよ!」
「可愛い冗談だろ? 真に受けるなよ」
「冗談…? 100パーそう思ってねぇだろうが」
「まぁね。Aさんが承諾してくれたら棚ぼただし」
案の定、喧嘩とまではいかない言い争いが始まった。
傑くんが予約してくれたお店は、どうやら悟さまが一枚かんでいて五条家に
五条家次代当主の突然の登場に店主がオロオロしていた。
うん、貸し切りで良かった。
最強二人の言い争いなんて、他のお客様の迷惑にしかならないもの。
「あの…お騒がせして申し訳ありません。私達、もう帰りますので…」
「あ、はい…いえ、そういう訳には…」
あたふたしている店主が気の毒で声をかけると、五条家への忠誠心が垣間見えた。
傑くんが『悟に許可はもらっている』と言っていたことと、今ここに悟さまがいるということから推測するに、今までの傑くんとの会話は悟さまに駄々漏れだったのは確実で、もはや隠し通せない。
覚悟というより諦めのため息をついた。
「お会計をお願いします」
ご正室に選ばれて五条家に戻った翌日、悟さまから私名義のブラックカードを渡されていたから、遠慮なくそれで会計を済ませる。
決済を待っている間、元気な男子二人の小競り合いは続いていた。
*
外に出て悟さまと向かい合う。
「悟さま、全部聞いてたんですね」
「……。」
「傑くんは聞き出し役」
「バレましたか」
私は別に怒っている訳じゃない。
だから声色にも充分気をつけて、羞恥の笑みを浮かべて穏やかに問いかけた。
ムスッと無言で不機嫌な悟さまと、困ったように微笑む傑くん。ほんと対照的。
私があからさまに悟さまを避けていたから、この事態は私のせいでもある。
悟さまが事情を聞きたくても、私の逃げ腰の態度に怯んで聞けなかったからこういう手段に出たんだ。
*
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年12月24日 18時