1 拒絶 ページ1
間接照明の柔らかな薄明かりに照らされたリビング。
「…ん…ふッ…」
潜めた息づかいに漏れ零れる吐息。
「…はッ…ん…」
自分の息継ぎまで艶かしく聴こえる。
「…ぅんん…悟、さま…ッ」
キスの合間に名前を呼ばれ、唇を僅かに解放。
少し動けば、また重なる距離だ。
「…これ以上は…」
「…まだ足りねぇ…」
抱いていた腰から下の丸みへ手のひらをそっと滑らせると…
「!?…ッあのっ私、明日! 仕事、仕事朝が早い、ので…ッ」
しどろもどろ捲し立て、真っ赤な顔で少し緩めた俺の腕の中からするりと抜け出したAは、小走りにリビングを出ていった。
「…んだよ…クソッ…」
髪が乱れ逆立つほど片手で頭をガシガシ擦って、湧き上がった淫らな欲と、既に溢れまくっている想いを抑え込んだ。
心地良い温もりが逃げて、心も身体も急激に冷えていく。
冷静になったところで改めて考えてみても、拒まれる理由が見つからない。
一度は手放したAを、この手に取り戻し正室にと決めてから二年。
あの日からずっとこんな感じで俺は…
キスのその先に進むことを阻まれていた。
*
「…はぁ…」
ホームルームまでまだ時間がある教室で、席に座って盛大なため息を吐き出し、そのまま机に突っ伏した。
あからさまなんだよ、避け方が。
そういうのを器用に出来るヤツじゃないって、何年も傍に居たから分かっていても、ショックなことに変わりはない。
恋人…しかも婚約者という関係で拒否られるとか…意味分かんねぇ。
少しだけ顔を持ち上げて、手のひらを見つめた。
「…もっと触りてぇ…直で…」
無意識に、口から音を出して零れ落ちた本音。
そんな呟きを聞き逃さない親友が隣に座っていた。
「朝からセクハラ発言はやめてくれ、悟」
優等生よろしく、目線を落として読んでいた小説から視線を外した傑が、苛つく正論顔で咎めてくる。
何でたった一言だけで、俺が考えてることが何か分かるんだよこいつは。
「セクハラじゃねぇ。恋人として当然の主張だ」
「それはそうか」
「俺の何がダメだっての…?」
「いや…悟じゃなくて、Aさんの方なんじゃないか? 問題を抱えているのは」
「…何で、そう思うんだよ…」
からかいや冷やかしを含んだ満面の笑みを浮かべた傑は、
「知りたい?」
本を閉じて、訳知り顔のドヤ顔で身体ごとこちらへ向き直り、足を組んだ。
ほんとムカつく。
前髪の先を呪力で強化して目ん玉に刺してやりてぇ…
「じゃあ、ヒント」
「いや、答えを教えろよ!」
「経験の数」
「…は?」
経験の数ぅ…?
全っ然! わっかんねぇ…ッ!!
*
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年12月24日 18時