6 大切な居場所 ページ6
「そういえば、あいつ倒れたまま置いてきちゃったけど…いいの？」
憂太に呪いを祓われてうつ伏せで倒れた状態のまま、元カレを放置してきたことを今更ながら思い出した。
「うん、すぐに処理班が来るから大丈夫だよ」
「処理班…」
憂太の話では、どうやら彼の私への愚行は呪いによるものだったらしい。
「…ごめん。理解できないよね…呪いとか…」
「え！？ ううん、そうじゃないの。今までそういう世界があるって知らなかったから、ビックリしてるだけ」
酷く申し訳なさそうに憂太が頭をかいた。
そのうえ、
「怖くない？」
「そりゃあ、見えないものは怖いし、見えたら見えたで怖いし…」
気遣いまでしてくる始末。
呪いを発生させているのは憂太じゃないのに。
「だよね。僕達はイカれてるんだ」
「え？」
「呪術師はみんな、頭がおかしいって意味」
悪口を言ってる割に、楽しそうな口調と緩んだ口元。
呪いとか恐ろしいワードを平然と言ってるけど、憂太は特に暗い影は落としていない。
「呪術師って楽しいの？」
「え、」
だからつい、そんな質問が口をついた。
憂太は一瞬、目を見張って驚いた後、すぐに頬を綻ばせた。
「うーん…楽しい仕事ではないよ。人間の負の感情と向き合って、その塊…呪霊や呪詛師と戦うわけだから」
「じゅそし？」
「悪い呪術師のこと。それにあんまり強い呪いが相手だと術師の方が死ぬこともあるし」
「死！？」
今度こそ思いっきり物騒な事を言い放ったはずなのに、憂太は穏やかに微笑んだ。
驚いて立ち止まった私を、憂太は夕陽を背に振り返る。
「大丈夫。僕、こう見えても結構強いんだ。仲間も先生もみんな強い」
「だから死なないよ」と付け加えて、憂太はまた笑った。
私には分からない、死と隣り合わせの世界。
そんな風に笑っていられるような生易しい世界じゃないって事は、何も分からなくても話を聞いていれば何となく理解できる。
それなのに憂太は今日一日、ずっと笑っていた。
「どうしてそんなに笑っていられるの？ もしかしたら、死ぬかもしれないんだよね？」
「…うん…いつかは死ぬかもしれない。でも…」
そう言って憂太は僅かな影を纏って俯いた。
けれど次の瞬間には顔を上げて、
「僕が僕のまま…ありのままで生きていて良いって自信が持てる、僕にとって唯一の大切な居場所なんだ」
夕陽に包まれて満面の笑みを湛えた。
「大好きな仲間や最強の先生もいるしね。毎日、楽しいよ」
多分、どんなに仲良くなっても私には入れない世界。
それが少し寂しいな…って思った。
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年3月6日 22時
