検索窓
今日:12 hit、昨日:18 hit、合計:115,281 hit

43 夕陽の公園 ページ43

気がつけば、夕陽が空を染め始めていた。

楽しい時間はあっという間だな…

この感覚は本当に久しぶり。


「そろそろ戻ろう」

「…うん…」

「送るよ」

「…うん…」


唐突に離れたくない、まだ一緒に居たいと全身がザワザワと主張する。

けれど無情にも更に時間は過ぎ、辿り着いた家の近くの公園。

ブランコに隼斗と私の想いで膨らんだ呪いがいる。

今の私には黒い靄にしか見えないけれど…

学校終わりに遊んで帰った時、門限の時間ギリギリまで一緒に居たくて、ブランコに座って色んな話をした。

黒い靄が漂うのは、その時いつも隼斗が座っていた方のブランコ。


「ごめんね、隼斗」


何の謝罪かも分からない、零れ落ちた言葉。

気づいてあげられなかった…

それどころか、悪態をついて別れてしまった。

隼斗が呟いた最後の言葉…


『俺、本当にAが好きだったよ』


あの言葉…

隼斗は、あの時どんな想いで…ッ


「私も…本当に好きだったよ…」


もはや届くことはない想いを口にすると、重苦しかった胸が少しだけ軽くなった気がした。

うん。もう大丈夫。未練はない。

今度こそ本当に前に進める。

ちゃんと憂太への想いに向き合える。


「Aちゃん」


穏やかで柔らかな声が、キラキラと背中に降りかかる。

芽生えたばかりの新しい決意を胸に、ゆっくりと振り向いたら…

憂太は困ったように眉を歪めて、それでも優しく微笑んでいた。

暗闇に射し込む眩しい光みたい。

慰めるような表情と、憂太が醸し出す雰囲気に、我慢した涙が再びせり上がってくる。


「憂太…」

「Aちゃん、手、貸してくれる?」


震える声で名前を呼んだ私の手を、憂太はそっと掬い上げた。


――シャラ…

「…え、これ…」


意外にも器用に私の手首に着けられたブレスレットが、夕陽に照らされて煌めいている。

目の高さまで持ち上げて見ると、可愛いハートのチャームが揺れていた。


「雑貨屋さんの…?」

「うん、Aちゃんに似合うと思って」

「…いつのまに…」


憶えてる。

このブレスレット、可愛いけど結構なお値段で手を出せなかった。

曖昧な態度を貫いている私には、貰う資格ないよ…


「僕、Aちゃんが好きだよ」

「憂太…私…」

「うん、分かってる。ハヤトを忘れられないんだよね…」

「そう、じゃなくて…」

「恋人にはなれなくても…Aちゃんを僕に護らせて欲しい。これはその決意の証」


勝手に話を終わらせる憂太が、悲し気な笑顔で私の手を取り指先でブレスレットに触れる。

その表情に胸が締めつけられ、言葉がもたついた。


*

44 募る想い→←42 理性と衝動〈憂太side〉



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (87 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
244人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 乙骨憂太   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆずあ | 作成日時:2022年3月6日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。