35 青天の霹靂 ページ35
「Aちゃん。“ハヤト”って人を知ってるよね？」
５月に入った今はもう葉桜となった高専内の桜並木を散策しながら、躊躇いがちに憂太が話を切り出した。
『ハヤト』という名前に、一瞬で心が揺さぶられる。
「どうして…隼斗のこと…」
憂太が知ってるの…？
先日、お互いのことを話した時には曖昧に濁して話した彼のこと…名前は伏せていたのに…
緩やかな風に前髪を靡かせて、困ったように微笑みながら憂太が私を見つめた。
「ごめんね。辛いかもしれないけれど聞いて欲しい」
口元を引き締めた前置きに、私は意を決して静かに頷いた。
そんな私の様子を受け止めて、憂太は小さく深呼吸すると、穏やかな声音で話し始めた。
「Aちゃんの自宅近くの公園にね、とても強い呪いが居るんだ」
「呪い…」
「うん。君に出逢った日に一度祓ったんだけど、昨日その公園に行ってみたら、同じ呪いが同じ場所に再発現してた」
憂太がゆっくりと言葉を紡ぐことで、私には見えない呪いでも、何となく情景を想像できた。
「祓った呪いが再発現するなんて滅多にないことだから不思議で、僕はその呪いに触れてみたんだ」
「そうしたら、Aちゃん。その呪いはね、君との想い出で溢れ返っていたよ」
「え…私…？」
「そして“ハヤト”は、君を想いながら半年前に亡くなってるんだ」
さらりと付け加えられた事実に、私の思考と想像が瞬時に止まった。
「…亡く…なった…？」
「うん…骨肉腫っていう骨の癌。無症状で発見が遅れたらしい。聞いてなかった？」
「聞いて…ない…転校すると…しか…」
「きっと彼は、大好きなAちゃんを悲しませたくなかったんだね」
澄み渡る空を仰ぎ爽やかに微笑む憂太から、隼斗が今はもう苦しんではいないのだろうと感じた。
憂太は優しいから、もし彼が呪いになって辛い思いをしているなら、こんな風には話さない。
「それでね…ここからが本題」
憂太が声を低めた瞬間、つむじ風が巻き起こった。
咄嗟に立ち止まり目をつぶると、憂太の手が私の腰に回り抱き寄せられた。
私達を包み込む空気の塊がおさまったところで憂太を見上げると、
「Aちゃんの想いが、“ハヤト”をあの公園に呪いとして留めていると思う」
真剣な眼差しで、思いもよらないことを告げられた。
まったく予想外で、しかも意味が分からない。
「私が、隼斗を…？」
「うん。そしてお互いを想い合う強い気持ちがバグを引き起こして、学校に呪いを引き寄せているんだ」
まさに青天の霹靂。
憂太を見つめて、何度も瞬きを繰り返した。
*
36 稀有な素質〈憂太side〉→←34 仮説〈憂太side〉
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 245人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年3月6日 22時
