4 空き教室の悪夢 ページ4
「やだってば！ 離して！」
「うるさいなぁ…もっと可愛い声出せよ」
「ひぁ…ッ」
嫌だ！ 気持ち悪い…ッ！！
元カレの唇が肌を啄むたびにゾワリと悪寒が走る。
こんなの無理！ 誰か…ッ！！
ーーガラガラガラッ
「この教室だね、リカ。もの凄く呪いが吹き溜まってる…」
突然開いた教室のドア。
もはや、はだけた制服を気にしている場合ではない。
「たすっけてっ！」
「え、Aちゃん！？」
暴かれかけていた胸元を片手で押さえて走り、夕陽が射し込む空き教室に入ってきた今日会ったばかりの男の子に縋りついた。
片腕でもしっかりと抱き止めてくれた彼の、思いのほか引き締まった胸板に少し驚く。
「どうしたの？ 大丈夫？」
大丈夫かと聞かれたら、まったく大丈夫ではない。
憂太がこの空き教室の扉を開けるまで、襲われていたのだから…
でも、今この場で憂太に弱音を吐くことは、背後のあいつに負ける気がして出来なかった。
何の反応もしない私と、その視界の先に佇む影に、憂太は状況を悟ったらしい。
「君は…人間、だよね」
これまた意外な低い声がガランとした教室に響いた。
こんな低い声出せるんだ…
って、いやいや待って。何その質問。
人間かどうかの確認って必要！？
それ以外の何がいるって言うの…？
「うーん…困ったなぁ…非術師の相手は任務に含まれてないんだけど…」
「…？…」
「先生に確認してる暇はなさそうだし、僕の独断でいいかな。後で謝れば…」
一体何の話…？
憂太はブツブツと一人言を呟いた後、
「Aちゃん、こっち。危ないから壁際に居てくれる？ 絶対に動かないでね」
肩を抱かれて後ろに移動させられた。
そして真っ白な彼の制服を上から着せられる。
「僕ので悪いけど…」
ふわりと憂太の匂いが舞い、悪くないと思った。
さっきの元カレとは天地の差。
「さて。君、呪われてるから祓わせてもらうよ」
憂太が背中の細長い包みから、キラリと光る刀を取り出した。
「日本刀！？」
剥き出しの切先を、俯いてワナワナと小刻みに身体を震わせている元カレに向けて構える。
制服を脱いだ憂太は紺色のTシャツで、思った以上に筋肉のついた二の腕に、グッと力が込められた瞬間。
ーーバシュッ！！
左右に振り切った一撃での風圧が、教室の窓ガラスをガタガタと強く震わせた。
元カレは、うつ伏せで床に倒れている。
「手加減おっけー。ガラス割れなくて良かったぁ」
「憂太…今の…なに…？」
「あー…えっと…」
私の問いかけに振り返った憂太は、バツが悪そうに視線を泳がせた。
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年3月6日 22時
