30 報告 〜昔話��〜 ページ30
どうしてあの時、私は隼斗からの別れを受け入れたんだろう。
もっと抗っても良かったんじゃないか…
本当は隼斗もそれを望んでいたんじゃないかって、今になって考えてしまう。
だから今回は簡単に諦めたりしないって決めた。
それにはまず、憂太と同じ目線で世界を見ないとダメだと思った。
呪術も呪いも呪霊も何にも知らない人間が、堂々と憂太の隣に立つなんて、きっと誰も納得しない。
特に、憂太に想いを寄せているひとは…
隼斗との別れによる心の傷がすぐに癒えるはずもなく、街でナンパしてきた適当な男と遊び歩いた。
隼斗と身体を重ねたのは数回だったけれど、愛される喜びを教えてもらったから、そういう行為をすることにも抵抗はなかった。
男の子と一緒にいることは、最初は気を紛らすための『遊び』だった。
でも“慣れ”とは怖いもので、いつしかそれが日常となり、私の生活の一部になった。
そして、そういう噂が水面下で広がるのは早いもの。
私の噂を聞いた男子達が沢山現れて、『遊び』に困ることはなかった。
そんな時に出会ったのが、例の事件を起こした大学生の男だった。
＊
「え…死刑…？」
「うん、秘匿死刑。取り調べの結果、余罪がわんさか出てきたんだ。もうフォローも出来ないほど」
２日ほど姿を見せなかった憂太が病室を訪ねてきて、
「あの男達の処遇が決まったよ」
開口一番、そんな報告をしてきた。
うん、憂太ってそういうとこあるよね。
呪術師は頭がおかしいって言ってたし。
でもそんなところが『可愛い』って想う私も、どこかのネジが外れたのかもしれない。
何て事だ。
「…怖い？」
「うん……知ってる人が殺されるのは、あまりいい気分じゃないよ」
「ごめん…呪術総監部はそういうところ厳しくて容赦ないから…」
「何で謝るの？ 憂太は悪くないでしょ？」
組織の上層部の決定に、一呪術師である憂太が逆らえないのは、部外者の私にだって理解できる。
憂太の方が傷ついた顔をして…私は平気なのに。
「でも…本当は好きだったりとか…したんじゃないかって…」
「……。」
あー…なるほど。
憂太お得意の“勘違い”が発動してるのか。
「ううん。別に好きじゃなかったよ。しかもあんな事されたから、私にも殺意が芽生えてる。一発殴ってやりたいと思ってたくらい」
「…ははっ！…そっかぁ…」
拳を握りしめる私を見て、分かりやすく安堵のため息をつき、ふにゃりと頬を緩める憂太。
なに、それ…可愛い…
もし今抱きしめたら、どんな反応するかな…？
好奇心が私に一歩を踏み出させた。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年3月6日 22時
