28 後悔 〜昔話� � ページ28
入院中の病室の窓から、高専のグラウンドが見渡せる。
何気なく見下ろした先に、木刀を手に戦闘訓練をしている憂太を見つけた。
相手は女の子だけど、憂太が尻餅をついて長刀の柄の先でおでこを突かれた。
めちゃくちゃ痛がってうずくまる憂太に頬が綻ぶ。
次に男の子と武器を持たずに近接戦闘に移る。
身軽で素早い動きをする男の子に蹴られて憂太が吹っ飛んだ。
憂太も負けるんだ。呪術師って強いんだなぁ。
女の子も近づいてきて、皆で笑い合っている。
凄く楽しそう…
ってゆうか、あのメガネの女の子、どう見ても憂太のこと好きだよね。
表情と目線で分かってしまう。
「あ！ 待って真希さん！」
不意に憂太達に背を向けて歩き出した女の子に憂太が声を上げた。
え、あの子がマキさん！？
そっかぁ…そうだよね。
憂太は基本優しいし、護ってくれるくらい強いし。
好きになっても全然おかしくないよ。
・・・・。
「あんな奴に初めてを捧げなきゃよかったなぁ…」
私の男の人との初体験は、１年の時に付き合っていた３年の先輩。
『付き合う』という本当の意味も分からず、初めて告白されて嬉しくて、流されるままに彼氏彼女の関係になった。
そして毎日、日が暮れるまで一緒に過ごし、何度もキスを交わした１ヶ月後。
どうしてもと懇願されて、彼の部屋でその行為を受け入れた。
ただただ痛いだけで気持ちのいいものではなかったけれど、彼との心の距離が一気に縮まった気がしたんだ。
だからあの日。
放課後、必ず１年の私の教室に迎えに来てくれる彼を、初めて私から迎えに行ってみようと思った。
確か３組だったよね…
怖々３組の教室に近づいた時、開け放たれたドアから彼の声が聴こえた。
「いやー処女初体験、キツかった〜色んな意味で」
「お前、ほんとサイテーな」
「だって“初めての男”ってやつになってみたかったんだよ俺も」
「サイテーofサイテー」
ぎゃははは――
廊下まで聴こえる、教室内の盛り上がった笑い声。
おそらく話題の主役である私が、すぐ側で聴いているなんて思いもしないし気にもしないだろう。
「で、続けんの？」
「いや、もう用済み。反応悪くて話もつまんないし」
「サイテーよりも最低な言葉、誰か知らねぇ？」
ぎゃははは――
そこでやっと私は、彼に遊ばれていた事に気がついた。
彼をまったく好きじゃなかった事にも。
一体何がそんなに可笑しいのか、耳障りな笑い声が響き渡る。
「ばっかみたい…」
頬を涙が伝ったけれど、これは悲しいからじゃない。
恋に恋してた自分が惨めで悔しいからだ。
*
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2022年3月6日 22時
