10 空想と現実 ページ10
御簾の外、庭園内に響く、呪霊の声と重なった兄の声。
『五日後だ』
呪霊操術の元祖、呪霊
主従関係を結んだ呪霊を操り、命令を下し放てば攻撃が可能。
どんなに離れていても術師本人の声を呪霊を通して届け、会話を交わすことが出来る。
呪霊操術のように体内に取り込む必要はない。
それが、一族相伝の術式だった。
兄弟姉妹、親族が何人いようと、相伝の術式を持って生まれるのは、その世代にただ一人。
その他の者は、呪霊声明操術の補助のような術式を持って生まれ、相伝の術式保持者である当主の側近になることが決まっている。
当主補佐の術式の中でも私の術式は、一族内でも前例がない新しい術式で、攻撃力が一際乏しく、両親を羞恥に追い込みがっかりさせた。
「そんな…五日後…ッ」
『何か問題でもあるのか?』
「い、いえ…ありません…」
『ゆめ準備を怠るな』
──フッ…
兄の声が遠退くとともに、呪霊の姿も消えた。
もはや、与えられた使命から逃げることも、抗うことも出来ない。
せめて、邪魔だけはしないように──
*
「A、いるか?」
「はい、ここに」
夕暮れの色に染まるお庭を眺めていたら、後ろから宿儺さまのお声が聞こえ、そちらへ身体を向けて座り直す。
「お帰りなさいませ、宿儺さま」
両手をつき深々と頭を下げて、殿がお帰りになったことに感謝する。
それが、妻…淑女の立ち居振舞いと心持ちであると、地下の座敷牢に閉じ込められてからも毎日、叩き込まれた。
女として、すべての所作は美しくなければならないと、言い聞かせられた。
一族から捨てられた身でも、いつか家のためにその身を使うことは、貴族家に生まれた女の
意に沿わない殿方と家のために婚姻を結び、生涯を共にすることは珍しくはない。
その点、私は恵まれていた。
宿儺さまという、気高く雄々しい、それでいて繊細でお優しい殿方と出逢い、妻として迎えていただけたのだから…
「変わりはないか」
「はい。お陰様で穏やかな時間を過ごしておりました」
「…そう、か…」
微笑みを返すと、宿儺さまはいつも頬を赤らめ、そっぽを向いて照れてしまう。
その仕草が、恐ろしい異形の見た目との格差で、とても可愛らしくみえた。
更に笑みを深めると、宿儺さまは咳払いで
それがまた、胸を鳴らすほど愛おしく感じてしまうのだから、本当にどうしようもない。
空想の中の出来事だと思っていた、殿方に酔わされ溺れる
自ら体感し、恐ろしいほどの幸せを感じていた。
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時