7 純粋な少女 ページ7
その日、A様はいつにも増して、出来上がった宿儺様の御膳をじっと見つめていた。
「どうかされましたか?」
尋ねると、ピクリと肩を揺らし私を視界に映す。
その瞳には深い戸惑いの色が浮かんでいた。
「裏梅さま」
「はい…?」
僅かに震える声で呼ばれ、疑問に思いながら返事をする。
「宿儺さまは人間を食べるのではないのですか?」
「え…人間を…?」
「はい。そう、聞いておりましたので…」
当然のように言われた言葉に私の方が怯えた。
人間を食べる…
宿儺様は確かに食に
おそらく、鬼神のごとき強さを誇る呪術師としての才に尾ひれがついたのだろう。
A様はそんな噂を事実として信じきっていたようだ。
「ご安心ください。宿儺様は食に関して異常な拘りはありますが、さすがに人間は食べません。鬼でも
「そう…なのですか…」
ほっと息をついて安堵するA様に、クスリと小さく笑うと、頬を染めて俯いてしまった。
本当に何も知らない、純粋な幼い少女のようだ。
国民から『宿儺様へ』と国司様を通して貢がれたようですが、国民の方が宿儺様の“お好み”を良くご存じのようで…
いずれ心が通じれば、仲睦まじい夫婦となるでしょう。
「では、A様。こちらの御膳を宿儺様へ」
「はい、かしこまりました。裏梅さま」
未だ表情は乏しいけれど、それなりに会話が成り立つようになったのは、つい最近のこと。
『女の様子はどうだ』と、明後日の方を向いた宿儺様に確認される日々も終わりを迎えつつある。
純真無垢で、庇護欲をそそる少女のように愛らしい容姿。
宿儺様が日頃好まれる女人と相違ない…
どうやらA様は早々に、宿儺様のお心を射止めてしまわれたらしい。
「今日、Aの様子はどうだった?」
一日の報告後。
何気ない雰囲気を装って、宿儺様にとっては一番気になる『本題』を口にする。
「はい。滞りなくお仕事をこなしていらっしゃいました」
「そうか…」
「口数も増え時折、僅かに微笑むこともあります」
「笑うのか…?」
「ええ、稀に…」
「そう…か…」
安堵したように小さく息をつき、頬を緩ませる宿儺様には自覚がない。
けれど間違いなく、A様を大切に想っている事が伝わってくる。
今が好機な気がして、私は再度頭を下げた。
「宿儺様。そろそろ、A様をお部屋にお呼びしてはいかがでしょう?」
「…は?」
「初めは添い寝から…」
宿儺様が驚きに目を見張り、珍しくほんの僅か頬を染めた。
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時