6 両面宿儺 ページ6
「両面宿儺。それがお前の嫁ぎ先だ」
「地方豪族だが、呪術の才も力も申し分ない一流」
「一族の落ちこぼれのお前にも、名誉の機会を与えるんだ。有り難く思え」
「滞りなく、自らの責務を果たせ。いいな、A」
父から言い渡された、突然の使命…婚姻。
術式至上主義である呪術師の名門に生まれたにもかかわらず、術式に恵まれなかった私に『はい、分かりました』という以外の選択肢などあるはずもない。
一族の落ちこぼれとして生かされてきた私が、まさかこの家を出ることになるとは思いもしなかった。
体よく追い出される、という方が正しいのかもしれないけれど、理由など何でも構わない。
ずっと、座敷牢で一生を終えるのだと、もう二度と外の世界を見ることは無いのだと諦めていたから…
けれど、通達の直後、同席していた三人の兄達が口々に教えてくれた、夫となる殿方の人となりを聞いて震え上がった。
「両面宿儺は、腕が四本、顔が二つもある異形の化け物だ」
「人間を食す鬼神らしいからな。精々気をつけろよ」
「粗相しようものなら、お前など生きたまま一口で喰われるだろうな」
異形の化け物…
人間を食す鬼神…
歪んだ笑みを浮かべた兄達に教えられた情報を全て信じ、華やかに着飾って、宿儺さまのお屋敷に辿り着いた。
扇の陰から垣間見た四本の逞しい腕に抱かれた時は、本当に怖かった。
お屋敷に着いたら殺される…
一族の使命も果たせず、生きたまま食べられるのだと…
恐ろしくて全身の震えが止まらなかった。
けれど宿儺さまは一向に私を食す素振りはなく、陽当たりの良いお部屋を賜り、執拗に名を問われ続けた。
あまりの恐怖に口が動かず声も出せなくて、三日経っても名を伝えられず、眠ることすら出来ない衰弱した私を見て、
そして、
『俺の妻で良いのか』
と何度も問われる。
食事の一切を任されている裏梅さま付きとなり、“宿儺さまの食事を作り運ぶ”という仕事を与えられ、毎日毎食時に、宿儺さまのお部屋を訪れた。
お部屋の隅に腰を下ろし、宿儺さまのお食事が終わるのをただひたすらに待つ。
その間、あの御膳を召し上がられた後、ついに私も…と、気が気ではなかった。
けれどやはり宿儺さまは…
「膳を下げてくれ。…美味かった…」
いつも私の物思いとは正反対にそう告げて、隣のお部屋へと姿を消す。
聞かされていた話とまったく違う、宿儺さまの態度と言葉。
噂はあくまで噂で、“本当”ではないのかしら…？
翌日、私はついに堪らず積み上がった疑問を崩し、裏梅さまに問いかけることになった。
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます！このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (
レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ！！すききききききいいいい！ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2023年3月18日 11時
