検索窓
今日:68 hit、昨日:62 hit、合計:27,597 hit

5 『愛』を知った日 ページ5

「お食事をお持ちしました」

「あぁ、ここへ持て」



Aは裏梅の指示通り、毎日毎食、生真面目に俺に食事を運んできた。

そのたびに部屋の隅に姿勢良く座り真っ直ぐ前を見て、俺が食べ終わるのを無表情で待っている。



「美味いな…これは、お前が作ったのか?」

「はい。お口に合ったようで光栄にございます」



Aはそう言って、恭しく畳に両手を付き頭を下げた。

一ヶ月後には、こうして多少の会話が成り立つまでになっていたから、そろそろ伽くらい出来るだろうと安易に考え、ある夜、部屋に呼んでみたんだが…



「宿儺さま。Aでございます」



御簾越しに映る影が、深々と頭を下げた。

言葉遣いもだが、やけに丁寧に躾られた所作。

その辺の町屋の娘や、春を売る遊女とは訳が違う。



「入れ。遠慮はいらん」

「はい。失礼致します」



だが表情は無感情極まりなく、身体のどこを触ろうと目をつぶったまま。

吐息は漏らすが甘く愛らしい声は出ない。

俺の欲は完全には満たされなかった。

俺の好きに身体を弄られ、淫らに鳴き乱れる様が見たいのだ。



「つまらんな」



こんな反応では、征服欲も満たされず、嗜虐心も湧きはしない。

早々に欲を発散して切り上げ、Aの横に汗ばんだ気怠い身体を転がした。

すると、仰向けで天井を見つめたまま、片手ではだけた胸元の着物を手繰り寄せ、もう一方の手で着物の裾を閉じ、珍しくAから口を開いた。



「宿儺さまは…お優しいのですね」

「優しい…だと…? 一体何の話だ?」



唐突な物言いに驚いて半身を起こした俺に、Aは視線を合わすことなく目をつぶり、ほんの僅か微笑んだ。



「俺は見ての通り異形の身だ。怖れて泣いて逃げ出したとしても、誰も後ろ指など差さん。だから本音を言え」

「いいえ。…もう…怖くはありません。宿儺さまは本当にお優しいです」



何を考えているのかまるで分からなかったが、その微笑みは今まで見たどの女の笑顔よりも美しかった。

初めて見せた感情の乗った表情に、俺はまんまと高揚した。

まるで甘い罠だ。

その後は無言で目をつぶり、あろうことか俺よりも先にスヤスヤと寝息を立て始めた。

無防備にもほどがある。

もう一度襲われても文句は言えない。が…

何故か愉悦を感じるこの状況。

そっと手を伸ばしてAを抱き寄せ、同じ布団を掛けて眠った。



この時、俺は生まれて初めて、この身が異形であることを呪い、生まれて初めて、女に対して甘い感情を抱いた。




それが『愛しい』と呼ばれる感情で、


『愛』を表す言葉であると知ったのは、


それから数ヶ月後のことだった──…



*

6 両面宿儺→←4 呼び名



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (87 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
222人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 両面宿儺 , 宿儺   
作品ジャンル:ファンタジー
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。