4 呼び名 ページ4
国の“英雄”である俺への貢ぎ物…
それは、
『女を贈るので、私達を護って下さい』
という意味の、簡単に言うと“生け贄”だ。
独り身の俺にとって“女”とは、欲を満たすための暇潰しでしかない。
*
屋敷に連れ帰って三日目の朝。
初日こそ部屋の隅で怯え震えていたが、そろそろ落ち着いた頃合いだと、女の部屋を訪ねた。
無遠慮に御簾を開け放つと、女は目の下にクマを作り虚ろな視線を投げてきた。
この二日間、寝ずに夜を過ごしたのだろう。
ろくに眠っていない事が窺える。
「はぁ…面倒だな…」
無意識にため息を漏らし、女に目線を合わせて問う。
「名は何という?」
「……。」
「まだ名乗る気にならんか…」
呼び名を聞きたいだけなのだが…
面倒な思いと苛立ちが、分かりやすく俺の眉根をきつく寄せる。
そのせいか女は、恐怖からかガタガタと目に見えて身体を震わせていて、もはや気の毒としか言いようがない。
再び盛大なため息が漏れる。
「これでは何と呼べばよいか分からんな」
話も出来ないほど怯える女を抱く趣味はないし、そんな女の世話は面倒以外の何ものでもない。
「はぁ…どうにも面倒だ…」
*
「A、と言うそうです」
数日後。
女の仕事振りを報告に来た裏梅が、一番始めに口にした情報は、女の名前だった。
「…話したのか?」
「はい。さきほどやっと…愛らしいお声を聴けました」
「そうか…口がきけない訳ではないのだな」
あまりにも声を発しないから、読み書きが出来ず言葉を知らない器量無しとして、体良く贄にされたのかと考えたが…
さすがに領主であるこの俺に、そのような女を贈るはずもない。
おそらくあれは、極上の女だ。
「今夜、お側に召されてはいかがでしょう?」
口を利いたと聞いてほっとしたのも束の間。
俺の安堵の言葉に続けて、裏梅が突拍子も無いことを口にした。
「何を、言っている」
「そろそろ頃合いかと…」
「馬鹿を言うな。まだそのような時期ではない」
「それは失礼致しました」
僅かに笑みを湛えながら、裏梅は恭しく頭を垂れた。
まったく…
本来であれば初日から三日間、
だが、あのように怯えきっている様子では、無理矢理な行為になってしまう。
こちらが恋い焦がれているならまだしも、俺にそんな情はない。
まぁ…愛らしいとは思うが…
「では、日を改めて…」
「余計な気を回すな。そうなる時は自然とそうなる」
「出過ぎたことを…では、お休みなさいませ」
口の端に笑みを残したまま、裏梅は静かに退室した。
有能はときに節介が過ぎるな…
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時