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※ 28 無慈悲 ページ28

青息混じりの声と、出会った頃と同じ虚ろな瞳。

子猫のように愛らしい声も、芍薬の花のように可憐な佇まいも、春風のように爽やかな空間も、全て失われていた。


「やはり手懐けられていたか」


低い声が聞こえ視線を向けると、日陰の部屋の隅から夕陽が射し込む場所へ身分の高い男が姿を現した。


「誰だ」

「俺はコイツの兄、A家の当主だ」


A……御三家ほどではないが、呪術師の名家として世に知られている一族だ。

AはA家の血を継いでいたのか…


「兄…が、一体何を…Aを返せ」

「それは出来ない。この女は反逆者だ。ここで処刑する。まぁ、既に虫の息だがな」


反逆者…処刑…? Aが、か…?

兄と名乗る男の言葉が、俺の知るAからは想像がつかず、まったく理解できない。


「何を…言っている…」

「この女は、お前を暗殺するために送り込んだ刺客。だがその命に叛いたのだ。生かしてはおけない」

「刺客…だと…?」


Aが、俺を殺す為に送り込まれた刺客…?

そんな素振りは一度も…だが、男が嘘をついているようにも見えない。


「残念だが、」


術を行使しようとした仕草が阻まれた。

身体が固まり動くことは叶わない。


「貴様の術はここでは無力だ」


失笑する男から部屋の壁へと視線を移せば、壁中見渡す限りに呪符が貼り付けられていた。

これでは俺が術を放った途端、倍になって返ってくる。

どうやら必中の領域も展開しているらしい。

ここで通用するのは、この男が設定した“縛り”だけだ。

Aの(むご)い姿に気取られて空間の歪みに気がつかず、まんまと奴の領域に踏み込んでいた。


「…クソッ…」


身体が動かん!

どうする…ッ!?


「す…くな…サ…マ…」

「A! すぐに助ける!」

「…いつか…さき…こる…薔薇…みせ…ッ…や…そく…」



「やれ」



男の一言で、一斉に振り上げられる無数の刃…



「や…めろ…」

「───…」



人に向けるものではないそれら全てが、小さく呟き悲し気に微笑んで、最期の言葉を口にしたAの身体に、情け容赦なく沈み込んだ。




「やめろ…」




何度も、何度も…

血の雨が降り注ぐ。





「やめろ"お"お"ぉぉ──っ!!」




…ふ…ざける…な…

ふざけるな…ふざけるな…

ふざけるなふざけるなふざけるな…ッ

ふざけるな"あ"あ"ぁぁ──っ!!





Aが何をした!?

俺への貢ぎ物として売られ、この屋敷の片隅で密やかに暮らしていただけだ。





日々の小さな幸せを享受して…








『宿儺さま』








俺を見て、ふわりと微笑み…

















ただ、俺が愛して──…


*

※ 29 残酷な現実→←※ 27 僅かな希望



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設定タグ:呪術廻戦 , 両面宿儺 , 宿儺   
作品ジャンル:ファンタジー
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時

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