26 天から地へ ページ26
「おめでとうございます。ご懐妊されていますよ」
「まぁ奥方様。おめでとうございます」
「…ありがとうございます…」
宿儺さまと私の、ややが…
「…嬉しい…」
「宿儺様のお帰りは夜中でしょうから、明日にでもご報告致しましょうね」
「…喜んで、いただけるかしら…」
「もちろんでございますとも！ どのようなお顔をされるのか弥生も楽しみです」
弥生と二人、顔を見合わせて微笑んだ。
このところとても幸せで、私は自分の身が置かれている状況を、つい忘れてしまっていた。
忘れてしまいたかったのかもしれない。
宿儺さまのお傍にいれば怖いものは何もなく、運命も宿命も使命も、すべては変えられるものと信じたかったのだ。
そのような夢物語
私の元に訪れることなど無いというのに──…
＊
翌日の昼下がり。
夢中で書物を読みふけっていて、辺りが静まり返っていることに気がつかなかった。
──ｶﾀ…
「弥生…？」
小さな物音に、ふと意識が書物から逸れ、顔を上げて周りを見回す。
陽が沈み始め、少しずつ空が茜色に染まる中、不気味なほど屋敷内が静寂に包まれていた。
そのうえ、この気配…呪力は…ッ
「よう、A。息災か？」
かけられた声に振り返ればそこには、お供を連れたやけに久しく思う顔が、不遜に口角を上げて私を見下ろしていた。
「っ…お兄さま！？ どうしてここに──」
「──どうして…とは…随分と悠々自適に暮らしているようだな。異形の化け物の側はそれほどに心地良いのか？」
「申し訳ございません！ ですが！──」
「──お前に弁明の余地が与えられるとでも？」
お兄さまの地を這う声音に、自分がこれからどうなるのかが想像できてゾッとした。
恐怖を感じ取った身体は一瞬にして体温が下がり、温もりを取り戻そうと全身が小刻みに震えていく。
“背筋が凍る”とは、まさにこの事なのだと身を持って知った。
「俺はなぁ、お前に機会を与えてやったつもりだった。使命を果たせば、俺の側に置いてやろうと算段していたんだ」
「…っ」
「そんな俺の貴重で有難ぁい好意を裏切ったのは、お前の方だよなぁ」
「…も、申し訳ございません…どうか…ご慈悲を…」
許す気も見逃す気もないお兄さまに私が出来ることは、両手と額を板の間に付けて、震える声で懇願することだけ。
「お兄さま…お願いです…お許しを──」
「──縛り上げろ」
温度も感情もない無慈悲な声が、頭上に落とされた。
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます！このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (
レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ！！すききききききいいいい！ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2023年3月18日 11時
