25 静寂 ページ25
遠出から数日後の朝。
「では、行ってくる」
「宿儺さま…」
「…なんだ」
「…あの…」
珍しく、Aが出掛けに俺を引き止めた。
後を言い淀み、言葉に迷い揺れる潤んだ瞳を見つめ、Aの言葉を待つ。
「…早く…お帰りくださいね」
「あぁ…今日の任務はそれほど時間はかからんが…」
このところ数日の日程の任務や、毎日、夜更けに帰宅していたからか、Aには寂しい思いをさせているのだろう。
そう察して、
「終わり次第、すぐに帰る。ではな」
「はい。いってらっしゃいませ」
ふわりと笑んだAの表情に安堵し、屋敷を後にした。
帰りに土産を買って帰ろう。
そうして朝までこの腕の中に抱きしめて甘やかし、朝餉の時間までゆっくり眠るのだ。
＊
「宿儺様、本日の任務は終了でございます」
廃屋に潜んでいた呪霊を祓い終わると、傍らに控えた裏梅が腰を折り頭を下げた。
「そうか…意外とあっけなかったな」
「ええ。そのようで何よりです」
Aへの贈り物を吟味するには時間は充分。
裏梅は食材の調達で俺の側を離れたため、一人で町の中心部にある老舗の仕立て屋へと向かう。
「まぁまぁ、宿儺様。ご足労いただきありがとうございます！」
仕立て屋にはいつも屋敷まで来させているのだが…
「気にするな。それより、例のものは出来ているな」
「もちろんでございます。ただ今お持ちします」
「その間、小物を見せてもらうぞ」
「ええ、ご自由にご覧下さい。今朝仕入れたばかりの反物もお持ちしますので」
先日、Aには悟られぬよう秘めた仕立てを依頼していたため、それを引き取りに立ち寄ったのだ。
ついでに、
「この
「かしこまりました」
「反物は…そうだな…後日、全て持ってきてもらおう」
「はい。承知致しました」
女物の華やかな贈り物を見繕い、この数ヶ月何やら思い悩んでいるAの気分を引き上げようと考えていた。
反物も、いつも俺か裏梅が選んでいたが、俺の分までAに選ばせれば、あれはきっと嬉しそうに笑って楽しんでくれるだろう。
そして、俺が傍にいない日々も寂しさを感じさせないよう、この羽織を女物に仕立て直したのだ。
いつも着ていたこの羽織は、俺の呪力に浸された状態。
Aを卑しい輩から護る意味があり、また術師であれば、羽織に込められた呪力から俺の気配を感じ取れるはずだ。
Aの喜ぶ顔が目に浮かぶ…
「A…？」
その日の夕刻。
静寂に包まれた屋敷には
血の匂いが充満していた──…
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 221人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます！このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (
レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ！！すききききききいいいい！ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆずあ | 作成日時：2023年3月18日 11時
