24 絵空事 ページ24
「──さま!」
「宿儺さま!!」
ブワッと水底から浮き上がる感覚と共に、深く沈んでいた意識と呼吸が戻ってきた。
「…はっ…ハァ…ハァ…クッ…ハァ…」
「宿儺さま…ッ」
あぁ…やはり…夢、か……
なんと救いの無い、残酷で最悪な夢だろうか。
未だに胸が引き千切られるように痛む。
「ご気分は…」
「…良くは…ないな…」
「酷くうなされていらっしゃいました。悪い夢でも見ましたか?」
「…あぁ…そう、だな……悪い夢だ…」
傍らで心配そうに覗き込むAに頬を緩め、片側二つの腕で自身の胸に引き寄せ、温もりを確かめた。
こんなにも無条件で愛らしいものを、あのような目に遭わせてなるものか。
必ず俺が護り抜く。
Aに出逢って呪った、生まれながらの異形の身も、人外の強さも、そのために有るのだと思えば誇らしい──
「──!?」
巡る思考を唐突に途切れさせたのは、俺の不意を突いたAから与えられた、ゆったりと触れるだけの口づけだった。
「宿儺さま、私はずっと貴方のお傍におります」
そして、終生の契りを結ぶ言葉。
幾分か取り乱した俺を安心させるために、Aは柔和な微笑みを浮かべている。
Aに出逢う前に賜った国司からの褒美の中に紛れていた、唐国の叙事詩の一節を思い出した。
「比翼の鳥…連理の枝…か…」
「宿儺さま…?」
「…絵空事だと、笑っていたのだがな…ククッ…」
誇張された滑稽な物語だと、今の今まで気にも止めていなかったが、相手がAなら悪くない表現だと心から思える。
小さく笑う俺を見て、Aも頬を緩めている。
嗚呼…これほどまでに愛おしいとは…
「A。俺もお前を生涯手放す気はない。覚悟するんだな」
「宿儺さまこそ、美しい女人は沢山いらっしゃいますから、目移りなどなさいませんよう、お気をつけくださいませね」
「有り得ん。不要な気を揉むな」
Aの後頭部を引き寄せ、もう一度、柔らかな唇を奪い取った。
拙くも俺の愛撫に応える小さな舌が、腹の底に潜めた情を再び湧き上がらせる。
本当に何物にも代えがたく、心を焦がすほどに求めて止まない。
「宿儺さま…わたくし…もう…ッ」
「我慢の利かない身体になってしまったな…」
「…っそのようなこと…ッ」
「淫らなお前も愛らしいと言っているのだ」
いつものように悦楽に抗い、多少の抵抗をされるのも好ましいが、このように快楽に従順なのもまた一興。
どのような姿でも、Aなら許せてしまうのだ。
「気をやるのは我慢だ。最後まで付き合えよ」
「そんな…あぁッ…」
言葉にならない子猫のような嬌声が、耳に心地良い──…
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時