22 遠出 ページ22
約束通り、Aを連れて日帰りの遠出をする。
Aの心身の負担を考えて、行き先は
牛車の御簾をずらし、伸び上がって外を覗き見るAは、そわそわと幼子のようだ。
「…A、少し落ち着け」
「だって宿儺さま…わたくし、初めて目にするものばかりで…」
貴婦人としての嗜みに反すると暗に伝えたが、そうか…
Aは俺の屋敷に来るまで、座敷牢という限られた空間で、想像もつかない窮屈な日々を過ごしていたのだったな…
Aが閉じ込められていた事には、過去の境遇など意に介さない俺でも、さすがに憐れむ心はある。
縋るように見つめられ、それ以上咎めることは止めにした。
はぁ…俺は、自分でも驚くほどAに溺れきっている。
もし子が生まれても、俺がAを一番に優先し、際限なく甘やかすのは変わらないだろう。
「宿儺さま? どうされました?」
不意に黙り込んだ俺を不思議に思ったAは、無防備にも俺に寄り添う。
物思いを秘める息を漏らしながら、Aの肩を抱き寄せた。
心配そうに俺を覗き込むAの唇を無言でそっと掬い、ゆったりと触れるだけの口づけをした。
俺がAに甘えているような口づけだけで、Aの頬は桜色に染まり、更に愛らしくなる。
これでは今夜、寝かせてやれんな。
*
「これが“海”なのですね!」
「そうだ。広くて美しいだろう」
陽の光が反射した水面を背景にしたAは、舞い降りた天女のように美しく煌めいていた。
このままでは海の神に見初められそうで、慌ててその手を引いて肩を抱き寄せる。
「はい! キラキラと輝いていて、海の世界に吸い込まれそうです」
「それは困るな。では、どこにも行けないように、こうしていよう」
「宿儺さま…」
俺に身を寄せてはしゃぐAに“海”を見せたまま、誰にも奪われないよう後ろから抱きしめた。
何をしても何を言っても愛らしいな、お前は。
この感情は紛れもなく『愛しい』というものなのだろう。
それを伝える言葉も頭では理解しているが…
この俺には似合わない気がして、肌を重ねても奥深くまで繋がっても、こうして腕の中に閉じ込めても、未だに口にした事はない。
まぁ、それはその内…
「宿儺さま…わたくし、今とても幸せです…」
抱きしめている俺の腕にそっと手を添えて、Aが柔らかな声音で呟き、俺は幸福に満たされる。
「…お前…俺を殺しにかかってるのか?」
「えっ!? そのような…ッ」
思惑通り焦って振り向いたAの唇を、口角を上げて掠め取った。
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時