21 深まる愛 ページ21
「おかえりなさいませ」
「出迎えご苦労。Aは息災か?」
「もちろんでございます」
「そうか…」
「宿儺様と
弥生め…余計なことを…
そう思うのとは裏腹に、俺の帰りを今か今かと待ちわびているAを想像してしまい、つい口元が緩む。
「すぐに奥方様のお部屋に御膳をお持ちします」
「あぁ……夕餉の後、今日は下がってよい」
「かしこまりました」
心なしか進める歩も速くなる。
早く、逢いたい。
「A! 帰ったぞ!」
「…宿儺さま…おかえりなさいませ…」
深々と頭を下げたAに遠慮なく近づき、その身体を四の腕で抱き寄せた。
嗚呼…この香りだ。
この数日、俺が求めていたのは…
しばしの間、Aを抱きしめる。
腕の中にすっぽりと収まり、俺の胸に頬を寄せ身を預けてくれていることが、何とも心地良い。
「お疲れでしょう? 今日は早く寝ましょうね」
「……それは、誘っているのか…?」
「…ぇ…ち、違います! わたくしは純粋に──っ!?」
Aが反論するために顔を上げた瞬間を狙って、柔らかな唇を掬った。
開いていた唇を捉えた訳だから、口づけが深くなるまではほんの僅か。
俺の胸の辺りの着物をギュッと握るAの手を、包み込むように優しく覆った。
妖しく艶やかな熱い吐息が口の端しから零れていく。
俺はいつもこれに絆されて…理性が曖昧になるのだ。
だが、そろそろ…
「宿儺様。御膳をお持ち致しました」
思った通り、口づけを交わす俺達の背後で、裏梅が音もなく手をつき頭を下げていた。
*
珍しく何の用事もない休日と呼べる日。
庭師に手解きを受けた弥生と作り上げたという花畑を見に、Aの部屋を訪ねた。
「宿儺さま、いかがですか?」
「あぁ、美しいな」
そう言うと、Aはふわりと笑う。
愛らしい笑顔は、花を敷き詰めたこの庭園よりも美しい。
「でもきっと、宿儺さまの薔薇の庭園には及びませんわ」
「そうだな…負ける気はしない」
「まぁ…大層な自信ですこと。来年が楽しみです」
出逢った頃に比べれば、見違えるほど表情が柔らかく豊かになった。
日々、Aへの想いが深まり、愛しくて堪らない。
俺がこのような心を持つようになるとは…
「A。近々、遠出するか?」
「え!? よろしいのですか?」
「あぁ、常に俺の隣に居れば問題ない」
「…もちろん…お側は離れません…」
頬を染めながら俯く様子は、俺の情を煽っているとしか思えない。
すぐに腕の中に囲い、そのまま閉じ込めて離さなかった事は言うまでもないだろう。
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時