17 儚い笑み ページ17
ある日の午後。
任務と所用を済ませて少し早い時間に帰宅した俺は、いつものごとく真っ先にAの部屋を訪ねた。
しかし、声をかけつつ部屋に足を踏み入れるも、普段『おかえりなさいませ』と、愛らしい笑顔を見せてくれる定位置に姿がない。
物音が聴こえず、酷く静かだった。
どこかに出掛けるなどあり得ないから、首を振って左右を見回し、不意に耳に届いた小さな声を頼りに縁側のある部屋へ歩を進めた。
するとAは、
それは今回が初めてではなかったため、
「またそのような
「宿儺さま…」
僅かに責める言葉が口をつく。
本来、主人である俺に
「申し訳ありません」
Aは俺の姿を視界に捉えると嬉しそうに目を細めて微笑みながら、明るく弾んだ声で謝罪の言葉を口にする。
歌うような声音と、手玉に取るような柔らかい笑みが判断を鈍らせ、俺をいとも簡単に虜にした。
心なしか頬が熱く感じ、Aの笑顔の眩しさから顔を逸らし、視線を外す。
立て直すために小さな咳払いをした。
「まぁ良い。ここは山頂だ。誰の目にも止まらん」
他人に姿を見られる恐れのある場所に身を置くことは、女としての教養を疑われるが、Aは間違いなく上流階級の教育を受けている。
それは即座に謝罪した態度に見て取れた。
だが…
Aの笑顔から膝の上に視線を落とした瞬間、
「それは…どういう事だ? 何を…している…?」
心臓が嫌な音を立てた。
何故なら、呪霊の中でも低級の低級。
Aは小型の呪霊を膝に乗せ、華奢な手でゆっくりと撫でていた。
呪霊も居心地良さそうに目をつぶり、Aの温もりを受け入れている。
「この子が、なかなか離れなくて…」
「見えて…いるのか…?」
「はい…」
バツが悪そうに微笑み、ゆっくりと目を伏せたAをじっと見つめる。
まさか、Aがこちら側の人間だとは思ってもみなかった。
一体どういう術式だ…?
呪霊の呪力が薄れていく。
「手のひらで触れたものの呪力を奪う術式です」
俺の
「…お前…術師、だったのか…?」
「いいえ。私は呪霊が見えるただの人間です。呪術師の方のように攻撃は出来ませんから」
「ただ…負の感情を緩和して相手の攻撃力と戦意を奪うだけ。…この術式に名は…ありません…」
そう言って、Aは悲しそうな儚い笑みを浮かべた。
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時