14 唯一無二 ページ14
「この香を、俺に…?」
「はい…宿儺さまを想いながら…合わせました…」
視線を落として頬を染めながらのAの返答で、俺の視界は一瞬クラリと揺れた。
ここまで心を揺さぶられたのは初めてだ。
俺を想い、俺のために…などと…
愛しい想いが体内を埋め尽くす。
「いつも素敵な贈り物をいただいてばかりなので、そのお礼、と言いますか…」
「俺が好きで勝手にしていることだ、気にするな。だが…」
嬉しい愛しいという感情が胸を高鳴らせ、自然とAに手を伸ばし、4つの腕の中に閉じ込めていた。
「お前から贈られるものが、これほど嬉しいとは…」
「そう仰っていただけて、安心致しました」
安堵の息を吐いたAは、俺の胸にしがみつき頬を擦り寄せた。
──ドクンッ…
心の臓が重たく弾む。
「あぁ…困ったな…今日はもう離してやれないようだ」
「わたくしも…離れたく、ないです」
Aの言葉が引き金となり、俺の理性は深い情欲に沈められた。
「…んぅ…」
無遠慮にAの唇を掬うと、甘い吐息が漏れる。
それがまた、俺の衝動を激しく煽るのだから困ったものだ。
こんなにも愛らしく、こんなにも手離せない大切な存在には、生涯もう二度と出逢えはしないだろう。
(…唯一無二…)
解っている。
大切な存在をひとつに決めてしまうことの恐ろしさは、想像に難くない。
もし万が一にもAを
*
──運命を
私の使命は一族の使命。
私が使命を放棄した場合、それは“一族の裏切り”となり、この身は滅ぼされる。
けれど、宿儺さまを護れるなら、私はそれでも良いと思った。
宿儺さまに出逢い、宿儺さまのおかげで、充分すぎるほど今生での幸せを享受した。
溢れるほどの『愛』を注がれた。
牢で一生を過ごすはずだった私が、人並みの女の幸せを掴むことが出来たのだ。
思い残すことは…ない…
──トクン…
そう決意した矢先、お腹の奥に何か気配を感じた。
両手で下腹部を優しく覆う。
そういえば、月のものがきていない…
…まさか…
「弥生…弥生はいますか?」
「はい、奥方様」
「弥生…
「お体の具合がよろしくないのですか!?」
「あ…いえ、そうではなく…」
お腹に両手を当てている私を数秒見つめた弥生は、すぐに合点がいったようで、
「あら…まぁ…」
「あまり騒がないで。勘違いかもしれないから」
「ええ、もちろんですとも! すぐに医師をお呼びします」
頭を下げた弥生は弾んだ声に満面の笑み、軽い足取りで退室した。
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時