12 日々の幸福 ページ12
心と身体を通わせて数ヶ月。
Aが“何か”を隠していることには気がついていた。
だが、隠し事が何であれ、俺はAを手離す気は更々ない。
いつか話してくれる時が来ると、気長に待つと決めていた。
それより俺にとっての関心事は、Aとの何気ない日常のやり取り。
特に今一番気に入りとしているのは…
*
その日の任務から帰ると真っ先にAの部屋へ直行、
「これの世話を頼む」
あえて簡単な言葉を連ね、小さな籠に収めた小鳥をAに手渡した。
「この子は…?」
何の説明もしない俺に、当然の疑問が返ってくる。
このやり取り…Aから反応を返させる事が、最近は楽しみのひとつとなっていた。
「羽に怪我をして木から落ちてきた。反転術式である程度は治したが、あとはそいつの自然治癒力で回復させたい」
「なぜ、全て治してあげないのですか?」
「そいつはこれからも野生で生きていく者だ。俺が全て治してしまえば、自然治癒力が鈍る。それは自然界では致命的だ」
「そう…なのですね。かしこまりました」
ふっ…と、柔らかく微笑んで答えたAに、密かに息を飲む。
俺は、Aのこの笑顔に弱い。
顔が熱い…赤くなっていないか…?
──数日後、Aから聞いた話。
どうやら俺はこの時、不覚にも耳まで赤くなっていたらしい。
Aを前にすると、どうにも調子を狂わされる…
*
先日、宿儺さまがお帰りになって一番に、私に傷ついた小鳥を手渡された。
世話をして欲しいと…
了承して微笑みを返すと、宿儺さまは耳まで赤くなり横を向いて頭を掻く仕草をする。
(本当に可愛らしい…)
殿方に可愛らしいなどと失礼だとは思うけれど…
もし願いが届くのなら、その表情は私にだけ見せてくれるものであって欲しい。
笑みを深めて心の中で膨らむ想い。
日々、欲張りになって独占欲が増していく。
可笑しな呪いのように、身体中の機能すべてが宿儺さまに向かい、事あるごとに宿儺さまに反応する。
「…チ…チチチ…」
眠っていた小鳥が目を覚まし、愛らしい鳴き声を聴かせてくれた。
実家にいた頃、座敷牢の格子の向こうで、自由に外の世界を飛び回る鳥達を羨ましく眺めていたことを思い出す。
日中はいつも、宿儺さまから贈られた書物を読み耽りながら一人で過ごしていたから、お世話をしないと生きられない小鳥がいる生活はとても新鮮だった。
もし…ややが産まれたら…
きっと毎日が発見と喜びの連続で、息をつく暇もないほど大変で、楽しくて…
怖いくらいの幸福に包まれる…
そんな未来の
*
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ゆずあ(プロフ) - ねかあさん» ご愛読ありがとうございます!このようなマイナーな作品を気に入っていただけたようで嬉しいです(*>∀<*)♪このお話の恋の行方は悲しいものと決まっていますが、最後まで見届けていただけると幸いです。 (11月2日 7時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ねかあ(プロフ) - うわわわわああああ!!すききききききいいいい!ありがとうございます。こんなに良い作品を (10月31日 22時) (レス) @page15 id: 705b80bf73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2023年3月18日 11時