95 慈愛〈宿儺side〉 ページ46
『宿儺さま』
俺の名を呼び、暖かい陽だまりに照らされた可憐な花のように、ふわりと笑う。
向けられた微笑み、慈愛、お前を形作る全て。
かつては俺だけのものだったそれらは、永い年月の間次第に、俺だけのものではなくなっていたらしい…──
──…
「宿儺！ しっかりして！」
俺の名を呼ぶ愛らしい声…
懐旧の情に満たされる。
何とも心地良い。
だが…
「そのような顔を…させたい訳では…なかったのだがな…」
これではあの時と立場が真逆ではないか。
血の海の中、既に事切れたお前に、何度も何度も呼びかけた。
起きてしまった現実が無にならないかと、声が枯れるまで叫び、必死で願った。
何故、Aだったのだ…
命を散らすのは、他の女でも良かったではないか…
幾度となく胸をよぎる無意味な憂愁すらも糧に、俺は
A…
もう一度、お前の笑顔に出逢うため──…
しかしお前は、千年をかけて俺の恨みの念を緩和した。
そして更に、この虎杖悠仁という器…
共振、共鳴。
呪肉先の身体を制圧できなかった代償は、感情までも共有し、互いの心根に影響を及ぼした。
Aの幸せのため
自身の深い想いを、諦め手離す
それが『俺達』の結論だった。
「そのように泣くな。俺は今、不幸ではない」
「でも…こんな…ッ」
「お前の思い描いていた未来ではないだろうが…まぁ、許せ」
「勝手に決めるなんて…っ！」
「…はっ！…気の強いお前も、悪くないな」
自己補完を止め、呪力を練るのも止めてしまえば、後は…
膨大な呪力を消費するこの生得領域も、そのうち解ける。
その前に、僅かな時間
…今だけ…もう一度…
気怠い身体を起こし、傍らで涙を流すAを抱き寄せた。
両腕で優しく囲うと、Aが華奢な身を俺に委ね、胸元にしがみついてすすり泣く。
賊に襲われ、Aを庇って刀傷を負ったときも、こうして泣いていたな…
忘れられない懐古の想い出に浸ることができるのなら、俺はそれで充分だ。
「A……今度こそ幸せになれ。俺はここで見ている」
「宿儺…」
耳の下から柔らかな髪に指先を通し
涙に濡れた頬を包む
親指で止めどなく流れる涙を拭い
咲き誇る薔薇のように
美しく色づく愛しい唇に
そっと口づけた──…
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 259人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うさぎのおもち(プロフ) - ゆずあさん» ゆずあさんコメントへのお返事ありがとうございます。本当に素晴らしかったです。同じ思いで嬉しいです笑千年の恋の方も読ませて頂いています！是非最後まで読ませていただきます！( ߹꒳߹ ) (11月28日 22時) (
レス) id: 2be3f74d8b (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - うさぎのおもちさん» 熱いコメント＆感動＆号泣！こちらこそありがとうございます！(*T▽T*) 実は私も陰ながら宿儺との未来を応援していました笑 なので宿儺との物語は『千年の恋』で、思いつくまま気が済むまで書こうと決めています。見届けていただけると嬉しいです(*>∀<*)♪ (11月27日 23時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
うさぎのおもち(プロフ) - 宿儺と主人公を応援してたのでめちゃくちゃ読んでてしんどかった(泣)めちゃくちゃ号泣して頭痛いです笑また宿儺と出会って結ばれて欲しいです泣ほんとに素晴らしいお話読ませていただきました。次の作品も楽しみにしています。本当にありがとうございます (11月27日 22時) (レス) @page49 id: 4b465d9ef7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - みぃさん» 早速のコメントありがとうございます！頭の中でごちゃごちゃしている物語を整理しながら、ご期待に沿えるよう焦らず更新していきます！♪(/ω＼*) (2021年12月17日 6時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！この先の展開がとても気になります！更新楽しみにしてますね♪(◍•ᴗ•◍) (2021年12月17日 2時) (レス) id: c397bf8382 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年12月16日 19時
